過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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51: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/07(火) 04:51:36.61 ID:Joyq1BtQ0
 この会話から三分後、スポーツカーは大きなビルような建物が立っている場所に向かって走っていった。先ほどまでの運転とは打って変わって非常に緩やかな動きと丁寧な移動だった。というのが、今までとは事情が少し違っているからなのだ。

 今まで無茶な運転をディーが行えたのは周りに人の気配がなかったからである。無限に広がる道だけの異界でしかも事故の危険性が限りなく低かったために四桁近い速度で移動ができていたのだ。

 しかし、ここからは違う。ここからは人がたくさん集まってきて、スピードを上げすぎると事故が起きる可能性が高くなる。それはとても困る。

だから一般の道を通るのと同じように丁寧な動きに変わったのである。

 大きなビルを見て京太郎はまたもや、固まった。目の前に広がる光景に開いた口がふさがっていない。

何せ今スポーツカーが目指して走っている大きなビルはビルではないのだ。

 遠くから見ると大きなビルに見えるのだが、近寄ってみると間違えているというのがわかる。

このビルは古い時代の建物から、最近の建物までがひとつの場所に集まって地層のように積みあがっているのだ。今の建築基準法で考えると完全に違法物件である。しかし不思議なことにまったく壊れる様子を見せない。むしろ安定しているように見えた。



 建物が地層のように積みあがっている休憩所に到着するとディーがこういった。

「それじゃあ、十分間休憩で。あまり遠くに言っちゃだめだよ。迷ったら面倒だから。

 トイレなら建物の中にあるからね。すぐに見つかると思う。

 俺はハギちゃんに中間報告をしておくから、後で合流で。もしも道に迷ったら帽子のヤタガラスのエンブレムをしっかりと持っていてくれたらいい。

俺が見つけにいく」

 ディーはそういうと運転席から降りた。運転席から降りたディーは大きく背伸びをしていた。そして携帯電話を取り出してハギヨシに連絡を取り始めた。

 ディーが連絡を取り始めるのをみて京太郎は助手席から降りた。特に、用事があるわけではない。せっかくよくわからない奇妙な世界に来たのだから少し景色でも見ておこうと思ったのだ。

 京太郎が車から降りると勝手に鍵が閉まった。京太郎は少し車を眺めていた。かなり不思議だったのだ。自動的に車の鍵がかかるということが不思議だったわけではない。今まで自分が乗っていた車の中と車の外とでずいぶんと空気が違っていることが不思議だったのだ。

ディーが車の中身を少しいじくっているという話をしていたが、これがそうなのかもしれないと京太郎は一人で納得していた。

 あまりスポーツカーを見ていてもしょうがないので、ふらふらと京太郎は動き出した。歩き始めたとき、ほんの少しだけふらついた。

しかしすぐに持ち直して歩き始めた。京太郎はまったく問題ないと思っていたのだけれども、スポーツカーに吸い取られたエネルギーというのはそれなりに多かったのだ。

しかし、苦しくて動けなくなるような負担ではなかった。


 「景色を見るのにいい場所はないだろうか」

 そんな気持ちでふらついていた京太郎は展望台のような場所を見つけた。展望台らしき場所にはベンチが並んでいて、観光名所にあるような望遠鏡がおいてあった。また、すぐそばには石碑のようなものがたっていた。

 この石碑は一メートルほどの大きさで、蛇のようなレリーフが刻まれていた。蛇というのは少し恐ろしいが、まったくこのレリーフからは恐ろしい感じがしない。

なぜならこのレリーフは妙なデフォルメがされていたからである。

 展望台で景色でも見ようかといって近づいていた京太郎が足を止めた。ベンチに寝転がっている人がいるのに気がついたのである。

大人一人が横になれるような大きさがベンチにある。そのベンチのひとつにワイシャツとズボンという格好をしていて革靴を履いた男性が寝転がっている。

右手で顔を隠しているのでどういう人相なのかはわからない。人の気配というのを感じていなかったので京太郎はずいぶん驚いた。

 自分以外に誰かが人がいると認めた京太郎は足音を小さくした。今までは無遠慮に刻まれていた足音が一気になくなった。

京太郎はベンチに寝転がっている人が気分でも悪くしているのだろうと考えたのだ。もしくは眠りたい人なのだろうと。

 どちらにしてもあまり大きな音を立てるというのはよろしくない。そう考えた京太郎は、邪魔にならないように気配を消したのである。

 展望台に到着して道だけで出来上がっている異界の奇妙な光景を京太郎が見ていると、ベンチで寝転がっている人がうめいた。

ずいぶんと辛そうな声だった。声の感じからそこそこ年をとった男性であることがわかった。京太郎の存在がうっとうしいからうめいたのではない。抑えきれない気分の悪さから逃れたいという気持ちが、うめき声に変わっているのだ。

 ひどいうめき声を聞いた京太郎は何事かと振り返った。ベンチで人が休んでいることはよくわかっていたのもあって、反応するのは早かった。

 京太郎が振り返ったところでは、ベンチで寝転がっていた人が起き上がって頭を抑えていた。三十代後半か、四十台に入ったようなおっさんだった。

顔色が非常に悪かった。今にも死にそうな調子である。このおっさんは気分の悪さに耐えかねて、起き上がったのだ。寝転がっているのもつらい状態なのだ。

 うめいているおっさんを前にして少し考えてから京太郎は近寄って、こういった。

「大丈夫ですか?」

 少し考えたのはここで声をかけていいのだろうかと悩んだからだ。もしも普通の世界でであったのならば、声をかけるくらいは問題はないだろう。

しかしここは普通の世界ではない。話しかけたら気分を悪くするような人もいるだろう。それを考えたのだった。しかし、京太郎は目の前であまりに辛そうにしているおっさんを見て、声をかけることに決めた。

ここで何もせずにどこかにいくというのは流石に心苦しかったのだ。





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