6: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/03/31(火) 04:01:26.45 ID:w4MVYybr0
京太郎たちが部室に到着したときには部員たちが部活動を行っていた。京太郎以外はみな、女子である。三年生が一人、二年生が一人、一年生が京太郎を入れて四人。
部長が見守る形で部員たちが麻雀卓を囲っていた。麻雀部なのだから、その活動は麻雀である。野球部が野球をするように、麻雀部の部員ならば、やることは決まっている。
宮永咲と京太郎が部室に入ってくると部員たちの動きが止まった。今まで聞こえていた音がぴたりと止まるのだ。学生服のすれる音がうるさく感じるような静寂にはいった。
今までの動きが止まってしまったのは、京太郎に対して妙な罪悪感のようなものがあるからなのだ。もちろん彼女たちに罪があるわけではない。
京太郎に対して罪があるのは京太郎を車で引いた犯人だけだ。彼女たちの罪悪感というのはそこにあるのではない。
宮永咲と同じなのだ。早い話が不義理だったと思ってしまっている。彼女たちは京太郎に何が起きたのかというのを第三者から聞いている。第三者というのは噂話をする同級生であったり学校の先生だったり、自分の親だったりする。そうして誰かから聞くまで自分たちは何も知らなかった。
そこそこの付き合いがあるにもかかわらず、まったく関係のなさそうな人たちのほうがよく事情を知っていた。
そして話を聞いてみると人助けのために動いて事故にあったというではないか。
これが妙な罪悪感の正体なのだ。自分たちはいったい何をしていたのだ、彼が人助けをして死に掛けていたときに、自分たちはいったい。
それがどうにも心を苦しめる。苦しむ意味もなければ、理由もないのに。須賀京太郎は自分の意思で歩いたのだ。歩いて人を探したのだ。そして命を失いかけた。自分で歩いた結果だ。
彼女たちが歩かせたわけではない。気に病むことなど何もないのである。彼女たちは関係ないのだから。
一番初めに動き出したのは、背の低い女子の部員。名前を片岡優希という。ずいぶんあわてていた。片岡優希はこういった。
「大丈夫だったか京太郎!」
京太郎の格好が変わったのを見てよほど恐ろしいことがあったのだろうと察したのだ。京太郎が事故にあったという話を聞いたときには、めまいがするほどの恐れを感じたものだった。
実際に事故の後遺症(灰色の髪の毛)というのを目の当たりにすると、心配するような言葉しか出てこなかった。
飛び込んできそうな勢いの片岡優希に京太郎は答えた。
「心配しすぎだって、大丈夫だよ。ちょっと眠ってただけだ。髪の色が変わったくらいで、今は前よりも調子がいいくらいだ」
空元気ではない。髪の毛の色が明らかにおかしくなったということ以外はむしろ調子がいいのだ。全身に力がみなぎるようになり、京太郎の感覚は研ぎ澄まされている。
特に集中力が高まっていて、気がつかなかったものに気がつくようになっている。入院していたのは検査が必要だったためであって、動けなかったからではない。
両親に心配をかけたくなかったので、おとなしくしていたが目が覚めた瞬間から走り回れる元気はあった。茶化してもよかったが、心配してくれているのだ。誠実に答えるしかなかった。
京太郎がそう応えるのを聞いて部員たちの顔色が悪くなった。今まであった元気というのが、さっぱりどこかに消えてしまっている。彼女たちの顔色を悪くさせているのもまた、妙な罪悪感である。
しつこくいうけれども彼女たちが気に病む必要などない。しかしそう簡単に割り切れないのが人間である。人のことを思いやれるのは美徳だが、苦しみのもとでもあった。
顔色が悪くなった部員たちを見て、デザインパーマをかけているような髪型の部員が京太郎にこういった。
「まぁ、無事でよかった。きれいな金髪もにあっとったが、灰色もなかなかええのう。
それで、今日はどうするか。いつも通り京太郎はわしが見ようか? なぁ、部長」
二年生の、染谷まこである。いつも通りの口調だった。まったく気にしていないという風である。彼女は気を使ったのだ。一瞬の沈黙と、その後の流れを考えるといちいち止まっているわけにはいかなかった。
京太郎が気にするなといっているのならば、こちらが気にしていてもしょうがないし、また気にしたところで、とっくの昔に結果は出ているのだ。何を言ってもしょうがない。
それがわかっていたから、彼女はさっさといつも通りの空気を出して暗くなりそうな場を巻き込んだ。
染谷まこが話を振ると、部長竹井久はうなずいた。少しぎこちなかった。竹井久は、染谷まこの「きれいな金髪」
というところに引っかかったのだ。
「もともと灰色系統の金髪ではなかったか」
と竹井久は思ったのだ。
しかし染谷まこは金髪であったという。おかしなことだ。そして記憶を手繰ろうとした。しかし思い出そうと思ってもなかなかはっきりと思い出せなかった。
どこからか流れてきた情報によれば、事故の後遺症で灰色の髪の毛になったというのだから、もともとは別の色だったはず。しかし、なぜだか金髪ではなかったような気がするのだ。
実に不思議だった。おかしいとは思った。しかし考えてもしょうがないことだと思い、それ以上考えなかった。暗い雰囲気が漂っているほうがずっと問題だったのだ。
何とか持ち直してみんなに聞こえるように竹井久はこういった。
「それじゃあ、私とまこが交代で須賀くんをみましょうか」
部長がそういうので、京太郎はうなずいた。まったく反論などするつもりがなかったからである。部長が決めて、それに従うだけのこと。空気がいつもと変わらないのならば、それに越したことはなかった。
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