過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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62: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/07(火) 05:42:30.45 ID:Joyq1BtQ0

 京太郎の提案でディーは意を決して箱の中身を確かめ始めた。肩に担いでいた木箱を下ろして、箱の封を解いた。釘で打ちつけられていたところもあったのだが、ディーの腕力の前には何の問題もなかった。

ディー自身も京太郎に提案されるまでもなく、確かめようという気持ちがあったのだ。京太郎の後押しがあったので、するすると実行に移せたのである。

 箱の封印をといて中身を確かめたときディーは顔色を変えた。血の気が引いて真っ青になっていた。

箱の中身というのがどこからどう見ても黒マグロではなかったからだ。そして、黒マグロがどこかへと消えてしまったという問題よりも、入れ替わっている箱の中身が問題だった。

 顔色を変えたディーを見て京太郎が箱の中身を覗き込んだ。

「どうしました? やっぱり、間違えていましたか?」

ディーの顔色があまりにも激しく変わったのをみて、何かとんでもないものが入っていたのではないかと興味がわいたのだ。


 箱の中身を見た京太郎は言葉を失った。

 箱の中には褐色肌の女性が氷詰めにされていたのである。女性は見たところ二十歳になるかどうかというところ、多く見積もっても二十五歳くらいであった。

身長は百六十センチあるかないかというところである。氷詰めの箱の中で胎児のように体を丸めて横たわっていた。

 京太郎が身につけているヤタガラスのジャンパーとよく似たジャンパーを着ていた。ジーンズをはいているのだけれども氷の水分で変色している。

また、髪の毛を長く伸ばしているのだが、氷詰めにされているために妙な形で固まっていた。

 褐色肌のためにわかりにくいが、どうみても生きているようには見えない肌の色になっていた。呼吸をしていないのだろう、衣擦れの音さえしない。

 氷詰めになっている褐色肌の女性を見たとき京太郎の脳裏に浮かんだのは、次のような言葉だった。

「黒マグロって、そういうこと? ブラックジョークにしては黒すぎる。いや、もしかしたら、あるのかもしれない。

 聞いたことがある、金持ちは俺みたいな小市民には理解できない趣向を凝らすことがあると。

 しかしこれはいくらなんでもきつすぎる。超えてはならない一線を二つも三つも越えてやがる。もしもこれがサマナーの当たり前だったとしたら、俺は」

 褐色の女性の氷詰めに完全に引いていた。

 顔色の悪くなっている京太郎は、チラッとディーを見た。恐る恐るというのがよく似合う視線の送り方であった。京太郎は願っているのだ。

ディーの顔色の変化が自分と同じ理由であることに。もしも違っていたとしたら、京太郎は静かにヤタガラス、龍門渕と縁を切るだろう。

 何とか持ち直し始めた京太郎の視線の先には独り言を吐くディーがいた。血の気が引きすぎて青を通り過ぎて白くなっていた。

「いやいやいや、いくらなんでもこれはない。流石に引くわ。あのお嬢が独断でこれをやったのか?

 ありえねぇ。派手好きでもこういう趣味じゃない。無茶をやるにしてもせいぜい無断で花火を打ち上げるくらいのもの。

 それにハギちゃんを通さないと物流センターは使えねぇ。なら、ハギちゃんがこれを知っていたか?

 それもありえねぇ。ハギちゃんならこんな提案をされた瞬間お嬢説教間違いなし。話を持ちかけた業者は討伐リスト入り間違いなし。

ありえねぇ、ありえなさすぎる」

 静かに混乱するディーを見て京太郎はほっとしていた。少なくともディーと敵対する可能性がほとんどなくなったからだ。

 ほっとした京太郎はディーにこういった。

「とりあえずハギヨシさんに連絡しましょう。話はそれからですよ。それにこの女の人、ヤタガラスのジャンパーを着ています。もしかしたら何か、あったのかもしれません」

 慌てふためいているディーよりもずっと京太郎は冷静だった。ディーに提案をしたのは、まずはハギヨシと連絡を取らなければ後で困るだろうと判断したからだ。

少なくとも氷詰めにされている女性を手放す選択肢はない。何がおきたのかを調べる必要があるだろう。どう見ても尋常ではないのだから。

ならばハギヨシと綿密に連絡を取ってこの状況を乗り越えなくてはならない。すでに黒マグロなどというのはどうでもよかった。

 思いのほか冷静な京太郎に促されてディーがうなずいた。そしてこういった。

「あぁ、そうだな。そうだった。サンキュー須賀ちゃん。ちょっと混乱してたわ。

 ハギちゃんに連絡して指示を仰ぐよ。マジ、勘弁してくれって感じだわ」

 ディーは京太郎に声をかけられて、混乱状況から持ち直し始めていた。混乱から回復したディーは携帯電話を取り出した。ハギヨシに連絡を取るためだ。



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