過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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64: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/07(火) 05:50:16.34 ID:Joyq1BtQ0
 京太郎が声をかけると褐色肌の女性がつぶやいた。

「ヤタガラス? 私、生きているの?」

 目の焦点が合っていなかった。しかし、間違いなく生きていた。ただ、目の前の状況を信じきれていないようだった。

 褐色肌の女性は自分が永遠に眠ったままになる可能性を考えて動いていたのだ。そのため、もう一度眠りから目覚められたことが信じられなかった。彼女はそれほど、無茶な賭けをしていたのだった。

 だから、できすぎだった。生きていることも、しかも目の前にヤタガラスの構成員がいるというのも、できすぎで信じられなかった。

 褐色肌の女性が反応を返すのを見て、京太郎はディーにこういった。

「ディーさん! 大丈夫みたいです! ハギヨシさんに伝えてください!」

 京太郎は女性の目の前で指先をふらふらと揺らしてみた。女性の目は、京太郎の指を追いかけていた。京太郎はそれを見て、少なくとも考えるだけの意識があるというのを確認できた。

また、京太郎の耳は、彼女の体の内側で強く心臓が打ち始めたのを聞き取っていた。この事実をディーに京太郎は伝えたかった。

 京太郎の反応を見て、電話の向こうにいるハギヨシにディーが伝えた。

「ハギちゃん、事情が変わった。構成員を須賀ちゃんが蘇生させたみたいだ。何が起きたのか確認する。

それと、お嬢に黒マグロはあきらめろといっておいてくれ」

 完全に死んでいるようにしか見えなかったヤタガラスの構成員が生きていたのだ。これから何があったのかを確認しなければならない。どのような事情があるのか知らなければ動けない。何にしてもまともな事件ではないだろう。

 まだ震えている褐色肌の女性に、アンヘルとソックの薬のビンを京太郎は差し出した。先ほどあけたものではない。

ウエストポーチの中に入っていた最後の一本である。ほとんど死んでいる状態からあっという間に意識を回復させるドリンクなのだ。

目覚めた女性にもう一本飲んでもらえれば、体調もずいぶん回復するだろう。

 京太郎はドリンクを手渡すときにこういった。

「これを飲んでください。少しはましになると思います」

 京太郎から薬のビンを受け取ると褐色肌の女性は礼を言った。

「ありがとうございます。助かります。

 あの……あなたたちはどこのヤタガラスなんですか。私は今、どこにいるんでしょう。知らせなくちゃならないことが、たくさんあるんです」

 褐色肌の女性がこのように言ったのは、少し面倒くさい事情があるからである。彼女が持っている情報というのが、誰にでも伝えていい情報ではなかったのだ。重要な情報というのはそういうものだ。必要なところに、必要な情報を渡さなくてはならない。

 仮に、同じ組織の人間であったとしても、知る必要のない情報というのがある。彼女の持っている情報というのはそういう類の情報だった。

 アンヘルとソックのドリンクを飲んでいる褐色肌の女性に、ディーがこたえた。

「ここは異界物流センター内部、オロチの石碑前だ。俺たちは、龍門渕のヤタガラス。いったい何があった?」

 ディーの声に混乱はなかった。褐色肌の女性をしっかりと見つめて、自分の仕事をしっかりとやり遂げる決意が声に宿っていた。

こういう明らかにおかしな状況というのはできるだけ正確に情報をやり取りすることが解決への一番の早道であるとディーは知っていた。

 ディーの話をきいて褐色肌の女性がこういった。

「龍門渕のヤタガラス……九頭竜の?」

 褐色肌の女性は少しおびえた。龍門渕のヤタガラスの評判というよりはハギヨシの評判を耳にしたことがあるからである。

彼女はその評判を知っていたためにわずかにおびえたのだった。

 褐色肌の女性に、ディーがこたえた。

「ハギヨシの話をしているのなら、その通り。それで、いったい何があった。話してくれ。すぐに伝える」

 ディーはまったく揺らがなかった。実に淡々としていた。自分たちの評判だとか、女性がおびえているという問題は目の前に転がっているもっと大きな問題の前にはたいした価値がないからだ。

 何とか回復してきた褐色肌の女性は話を始めた。

「私は、ヤタガラス帝都支部所属のサマナー虎城ゆたかです。ライドウの指令で『松 常久』の内偵を進めていたところ、感づかれたらしく襲われました。
 私は何とか逃げ延びたのですが、私の部下たちと内偵していた調査員は、おそらく」

 淡々としているディーにずいぶん褐色肌の女性は圧されていた。しかし、しっかりと自分が何をしていたのかという話をした。しかし少しだけ、無用心であった。もしかしたら京太郎たちが偽者の可能性もあったからだ。
 


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