過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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83: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/14(火) 04:40:37.22 ID:KlUD8s2/0

 異界物流センターからディーの運転するスポーツカーがどんどん離れていく。ディーの運転するスポーツカーを猛追する車の群れがあった。その数二十。数が多いだけならよかったのに、見た目が悪い。

どれもこれも非常に物騒な車ばかりだった。戦車に車の車輪をつけたような車、装甲車である。

 ただの装甲車ならいい。ディーの運転するスポーツカーは常識はずれの速度で走り、自在に動き回るのだ。すぐにでも振り切れる。

しかし、こいつらは追いついてくる。ディーのスポーツカーと同じように風をまとい、喰らいついていた。悪夢のような光景だった。

 松常久は虎城を逃がす気がない。虎城を生かしておけば、破滅する未来が確定するからだ。内偵を受けるはめになった事件にも破滅の種があるが、ヤタガラスの構成員を襲ったというのも破滅の種だ。当然、生き残っている虎城は飛んでも大きな破滅の種である。

 内偵を受ける羽目になった事件も、ヤタガラスの構成員を襲った件も、虎城がいなければごまかせる可能性が高い。言い訳がきく。苦しくともいいわけができる。

ならば、殺すだろう。ここはオロチの異界。証拠は残らない。たとえ人の道に外れても、ここで終わらせたい。

 当然だが、京太郎もディーも一緒に消すつもりだ。内偵を行っていたヤタガラスを襲ったという情報が京太郎とディーに伝わっているのだから、特に消しておきたい。

とっくの昔にハギヨシに伝わっているけれども、京太郎、虎城、ディーがいなくなれば、言い訳はいくらでもできる。証拠がないからだ。

たとえ怪しい言い訳でも、命はつながる。ならば、生かして返す理由は一つもない。むしろ、松常久が生き延びるためにはなんとしても京太郎たちを皆殺しにしなければならないのだ。

 追いかけてくる車を見た虎城は体を震わせていた。ディーのスポーツカーは奇妙なことで空間がゆがんでいる。しかも、どういう理屈なのか、しっかりと背後が見えるようになっていた。

 虎城は見てしまったのだ。土煙を上げながらたくさんの装甲車が自分を狙って追いかけてくる光景を。いやな光景に違いない。

圧迫感はすさまじいものがある。装甲車は大きくていかにも硬そうだ。ぶつかり合ったわけではないのだから、強くないかもしれない。しかし見た目が強そうなものは恐ろしく思うのが人間なのだ。

 それだけで人間は恐れを抱くのだから、こんなものが群れで襲い掛かってくれば、怖くてしょうがない。そして、もしもつかまったとしたらどうなるのか。これを考えるのが一番怖い。

 虎城は当然消される。消されるだけならば、まだいいだろう。虎城は女性だ。消される前にどうにかされるかもしれない。

そして一番いやなことがある。それは京太郎とディーのことだ。

「自分が巻き込んでしまった。自分がこの二人の運命を変えてしまったかもしれない」

そう考えるとたまらなく胸が締め付けられるのだった。

 虎城と同じように京太郎も追いかけてくる車の群れを見ていた。あせっているディーと恐れおののいている虎城とは対照的な表情をしていた。京太郎は冷えた目で装甲車の数を数えていた。

そして、じっくりと相手と自分の力をはかろうとしていた。今の状況は修羅場。穏やかな気持ちではいられない状況であるはず。

 しかし不思議なことで、この修羅場の中で京太郎の頭はよく動き、またさえていた。つい先ほど、ベンケイから忠告を受けたというのに、京太郎は自分の心の中の、興味を抑えられそうになかった。

「どうすれば、あいつらをしとめられるだろうか」

この心の動きが、京太郎に奇妙な静かさと集中力を与えてくれているのだ。

 装甲車の大体の数と特徴を数秒で観察し終わった京太郎は、ジャンパーのポケットに手を突っ込んだ。実に滑らかな動きだった。迷いというのが少しもない。

自分たちの置かれている状況と、周りにいる人たちを巻き込まないように魔法をできるだけ使わないほうがいいという条件を合わせて、一番適切な攻撃手段を京太郎は、はじき出したのだ。

 はじき出した攻撃手段というのは、京太郎のジャンパーのポケットの中に納まっているデリンジャーである。サービスエリアで出会ったサガカオルから貰い受けた一品だ。京太郎はこいつを使って、後ろから迫ってくる装甲車の群れ、約二十台を相手取るつもりである。

 そして、ジャンパーのポケットからデリンジャーを引き抜いた京太郎は、電話中のディーに提案した。

「足止めしましょうか? 追いつかれそうですけど」

 ディーが答えるよりも早く、京太郎は動き出していた。今までかぶっていたヤタガラスのエンブレムのついた帽子を脱いで、後ろの不思議空間に放り込んだ。そしてシートベルトをはずして軽く体を揺らした。

 京太郎の提案を受けたディーは電話での会話を続けながらうなずいた。ディーの視線は目の前の道をしっかりと見据えていた。ディーの運転するスポーツカーは早い。

言葉通り桁違いのスピードが出せる。おそらく本気でアクセルを踏み込めば、あっという間に振り切れるだろう。しかしできない。追いつかれ始めている。

 理由は簡単だ。自分たち以外の車が邪魔をしているのだ。異界物流センターはサマナーたちの物資をやり取りする拠点である。いろいろな場所からいろいろな種類のサマナーが姿を現すのだ。かなり広い道であっても、センターに近い道は混むのだ。

 ディーは何とか車を走らせているけれど、それも事故を起こさないように気を配ってのこと。弾き飛ばしていくようなことはできない。そうして安全運転をしているため、簡単に追いつかれてしまうようなことになる。

 追いつかれてしまえば、周りにサマナーたちがいる状況で戦うはめになる。そうなれば、被害は広がる。最悪だ。それを防ぎたいのならば足止めをするしかないだろう。今、この状況でできるだけ被害を出さないようにしようとすれば、京太郎しかいなかった。



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