90: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/14(火) 05:07:39.77 ID:KlUD8s2/0
京太郎がスポーツカーに戻ったとき、後部座席の不思議な空間で虎城が小さくなっていた。ひざを抱えて震えていたのだ。
助手席に座った京太郎が心配して虎城にきいた。
「大丈夫ですか? 顔色悪いっすよ」
先ほどまで虎城は元気だったのだ。それが車に戻ってきたらずいぶんおびえている。これはおかしかった。たかが、数分しか一人きりにしていないのだ。さっぱり京太郎には虎城が震えている理由がわからなかった。
京太郎が心配しているのを見て、虎城が答えた。
「ご、ごめんね。こういうところに来たことがなくて、二人が外に出ていって、一人ぼっちだと思うと急に怖くなって。
ははは……須賀くんは怖くないの? 一般人なんでしょ?」
京太郎とディーが戻ってくると虎城はずいぶん元気になった。虎城は本当に怖かっただけなのだ。スポーツカーの中、車の外には京太郎もディーもいる。二人の力量があれば、よほどのことがない限り虎城まで被害が及ぶことはない。しかしそれでも、一人きりになっているのが怖かったのである。
そうなってみて、京太郎が虎城には不思議に見えた。
自分から真っ暗闇の世界に飛び出す。戻ってきて平気な顔をして虎城を心配する。自分がこんなにも怖いと思っているのに、年下の京太郎が普通にしているなんておかしなことだ。京太郎と同年代の生意気な部下もきっと震え上がっただろう。
もしかしたらと思うのだ。
「強がっているのではないか」と。
だから聞いたのだ。聞いたところで同類がいたとほっとするくらいのものだが、それでも聞きたかった。
スポーツカーが走り出すのとほとんど同じタイミングで京太郎は答えた。
「いえ、特には」
実にそっけない返事を返した。真っ暗闇の中に出て行って、石碑を触っただけだ。それだけだ。怖いという感情はどこにもなくただ、道がわかってうれしいという気持ちしかなかった。
オロチの石碑に従って車が進んでいくと周りが明るくなり始めた。五分ほどかっ飛ばしたところである。真っ暗闇の世界に光が混じるようになったのだ。それは曇り空が晴れていくような静かな変化だった。
真っ暗な世界に光が混じるようになると、ディーがこういった。
「どうやら、上の階層に移りつつあるようだな。まったく冷や汗かいたぜ。何の手がかりもない道を走るのは勘弁だ」
ディーの偽りのない感想だった。暗闇とどこまでも広がっている道だけの世界。思い切り車を走らせるにはいいかもしれない。しかし、何もないというのはつらかった。
どこにもいけないまま、終わってしまうのではないか。二度と元の世界に戻れないのではないか。そんな気持ちばかりがわいてくる。運転するのが好きだといっても永遠の迷子になるのはいやだったのだ。
徐々に明るくなっていく世界を更に進んでいくと、岩が立ち並び始めた。一メートルほどの岩である。明らかにおかしな状況だった。今まで何もなかった世界にいきなり岩がポツンポツンと見え始めるのだ。しかも、はじめはひとつ。次は二つ。その次は三つと先に進むたびに増えていく。怪しいにもほどがあった。
しかし先に進まないわけにはいかない。そうして更に先に進むと視界に入ってくる岩がいよいよ無視できないほど多くなってくる。おかしなことで、岩たちはどんどん道を狭めるように生え始めるのだ。すでに視界は障害物だらけであった。
引き返そうとも考えたのだけれども、できなかった。背後も同じように岩で満ち始めていたからだ。
京太郎たちが「おかしい」と思いながらも先に進むと、ついにスポーツカーが進める幅だけしか道がなくなってしまった。
スポーツカーの横幅に余裕を持たせただけの一本道が出来上がっているのだ。田んぼのあぜ道のような状態である。あぜ道は盛り上がっているけれども、この道は周りが岩で盛り上がっているのだ。
確実におかしなことがおきていると誰もがわかった。しかしスポーツカーは先に進むしかなかった。帰り道は前にあるからだ。そして引き返すこともできない。なぜなら、走ってきた道はすでに岩で埋められてしまっている。
強制的な一本道を進んでいくと怪しい女性が道の先に現れた。ぼんやりとした光の中に怪しい女性が立っていた。
この女性は奇妙な格好をしていた。ぼろ布としかいえないものを体に巻きつけているだけだ。そして髪の毛が伸びっぱなしである。
それも尋常な長さではなく、地面に引きずるほど長かった。身長が百五十センチほどであるから、その髪の長さとなれば三メートルか四メートルというところである。
また、長く伸びた前髪で顔が見えない。
しかし髪の毛の奥で光る赤い光が二つあった。この奇妙な光がこの女性の目なのだろうと予想は簡単についた。
いかにも怪しい女性の背後に長い坂がのびていた。坂の先には光が見えた。
怪しい女性はこの坂の前に立ち、両手を広げて立ちふさがっているのだった。
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