5: ◆DFyQ72NN8s[saga]
2015/04/01(水) 10:43:03.07 ID:w+Y5NOKn0
それから部屋に戻って、再びベッドに潜り込んだ私たちは、抱きしめ合って、静寂に耳をすませていた。
午前2時20分。夜の帳が下りて、小さな窓から溢れる青い月明かりだけが、私たちへ静かに降り注いでいる。
今、此処には、私と憂のふたりだけ。聞こえるのは静けさの奥に響き合う、命がふたつだけ。
眠ってしまうには惜しいくらい、静かで緩やかで、それでいて、
ほんの少し、悲しみや寂しさがさざ波を立てているような時間。
このまま世界が終わってしまえばいいのになぁ。
唯先輩には、申し訳ないけれど。
「梓ちゃんは、どうして私と一緒にいてくれるの……?」
そんな静けさを、憂は壊さないようそっとふれるような透き通る声で、私に問いかけたのは、そんな時だった。
私を抱きしめる両手が、すこしふるえている。
それは私や唯先輩−−彼女を愛したことのある人じゃなきゃ、
わからないくらい小さく−−だけど、思慮深くて優しすぎる憂の精一杯の、怯えだった。
「私はね、梓ちゃん。本当のこと言うと、今だけなら……
ひと時だけの関係なら、このままでも良いって、そう思ってたの……」
「いつかただの友達に戻ってしまう日が来ても、仕方ないから……
それまでは……って私は梓ちゃんに甘えていたの……」
憂は、ふるえる声で私を抱きしめたまま、話し始めた。
その両腕は、必死にふるえる声を抑えこむように力がこもる。
「憂……」
私は背を向けて、憂に後ろから抱きしめられるような形になり、両手を憂の両手に重ねる。
あたたかい。だけど、心まで冷え切ってしまうくらい、ふるえているから。
指の形をなぞるようにして、ゆっくり、ふれあう。
そうして一瞬の静けさの後、憂はまるで私を抱え込むように強く抱きしめ、続けた。
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