過去ログ - モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part12
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◆PupFZ5BZvyzZ
[sage saga]
2016/02/03(水) 23:14:46.88 ID:OdbudYhc0
ようやく復帰した彼の視界にはムチめいてしなる緋色! もはや認める他なかった。彼は、負けたのだ。ヌエ獣人はゆっくりと崩れ落ちた。
彼は老獪であったが、己と同等の存在と真正面から戦った経験はなかった。それはショウジョウ獣人も同じであったか。ならば勝敗を決めたのは……。
「若さ……熱……そうだな……私は半端者だったのだ。もはや楽園も……」
ヌエ獣人の危機に、周辺ビル屋上に控えているはずのサル獣人達は動かぬ。見捨てられたのではなく、狙撃手の仕業であろうことが救いだった。
女が二人、横たわる彼を覗き込んでいた。どちらも裸で、人間の姿をしていた。
「……トドメはどうした? ……まだ、その柔肌と臓物を食いちぎるだけの力は……ある……」
「そのつもりだったんですけどね。……オルトロスの話を聞きたがってる人がいるから。それに、王子も生きてた」
「……なるほど。だが、こうも醜態を晒した以上、私の命は長くない。……何も話す時間はないよ」
アサミ=ロイの言葉は偽りではなかった。彼の心臓の位置に奇怪な紋様が浮かび、赤い炎が燃え上がった。
炎に身体の中心から焼かれながら、アサミ=ロイは己の右眼を抉り出した。金の眼光を放つサイバネ・アイだ。
「私が見届けた、王子の勇姿……。私は弱い。獣人界の争いも、結局は便乗しただけだった。これで力を、正当性を示せ……さすれば争いは……」
王子シャキョウはアサミ=ロイの傍らに跪き、サイバネアイを受け取った。自らを手酷く痛めつけた敵に、彼は深々と頭を下げた。
「こちらで最後に出会えたのが貴公で良かった。僕は一生、貴公に勝てない。いつまでも、僕の慢心を戒め続けてくれ」
「……光栄だ、王子。獣人を……獣人界を……変え……」
最後まで言いきることなく、白き幻獣人アサミ=ロイは白き灰と化して散った。後に残った三つの花弁を持つ炎の花めいた紋様も、やがて消えた。
『……!』奥底でヒノタマが何か叫んでいたが、洋子にはその声を拾い上げるほどの力は残っていなかった。
仰向けに倒れ込んだ洋子を、イツキが抱きかかえた。降り出した冷たい雨の中、二人は互いの熱を感じていた。
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