過去ログ - モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part12
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◆PupFZ5BZvyzZ
[sage saga]
2016/02/03(水) 23:22:50.39 ID:H+PnEL/o0
……その時である。BEEP! 玄関の呼び出しブザーが福音めいて鳴った。洋子が身体を起こし、黒衣Pを見た。
「ドーモスミマセン、小包です」
配達員の青年は、事務所の中に漂う重苦しい雰囲気に耐えかね、早々に退散した。辞書を脇に追いやった応接机の上で、小包は開封された。
中身は封書と何らかの布めいた物体だ。黒衣Pは封書を手に取った。癖が強いが人間界の文字。ライオン獣人の王子、シャキョウの手紙だ。
……獣人界の戦乱は、思わぬ形で終結したという。旧友からの見舞いの品を見た蛮王はたちどころに活力を取り戻し、民の前に堂々たる姿を現したのだ。
王軍、賊軍、市民全てがその威光に平伏し、王子の出る幕はなかった。
「もう、獣人界で不要な血が流れずに済むんですね」
イツキが涙ぐんだ。蛮王の治世は少なくとも五年は続くであろう。その間に王子は王の何たるかを学び、王位継承を滞りなく行うため力を蓄えるという。
「『彼の者の忠誠と武勇は全ての者が認めるところである。更なる活躍を祈り、王家より餞別を贈る』だとさ。そのモコモコはイツキのだな」
「何だろ、見せて見せて!」
二人に促され、イツキは布めいた物体を広げた。長い。およそ二メートルはあろうかというそれは、黒や茶色が入り混じった毛皮だ。
洋子は毛皮をイツキの首に巻き、満面の笑みを浮かべた。
「ふふっ、似合うよイツキちゃん! なんか、王様? 女王様? みたいな……あっ!」
洋子は啓示を受けた預言者のごとく辞書の一冊を掴んだ。パラパラとページをめくり、筆ペンを短冊に叩き付ける。
「……獅子の女王『リオンレーヌ』……どうかな、イツキちゃん!」
「……リオン、レーヌ……リオンレーヌ!」
イツキは噛み締めるように繰り返した。獅子の女王。その名に恥じぬヒーローになれるか? 無論、なるのだ。迷いはない。イツキは新たな己を受け入れた。
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