6: ◆Freege5emM[saga]
2015/04/06(月) 22:39:33.17 ID:Busjx15yo
●09
某月某日
今日、今の事務所に入れてもらってから、私は初めて人前で泣いてしまいました。
涙目とかそういうものではなく、声をあげて泣いてしまいました。
私は、自分の不幸体質を打ち消すために、自分が憧れたアイドルになって、
人の心を幸せにできればいい、と思っていました。
それしかない、と思ってたから、どんな不運が降りかかってきても、諦められなかったんです。
どうしてもトップアイドルになりたいんです……! どんなに不幸でも!
……なんて、プロデューサーさんに言えたんです。
今の事務所でアイドルデビューしてから、今までまき散らしてきた不幸を少しは取り戻せたかな、
なんてことまで考えていました。実際は、一度起きた不幸は変えようが無かったのに。
私のやってきたことって、なんだったんでしょうか。
私の不幸体質は、いくら頑張ってもどうにもならないんでしょうか。
レッスンの時間になっても、携帯電話に着信があっても、
私は何もできないでベッドにうずくまっていました。
けれど、不意に自室のドアがガチャガチャと音を立てた時には、
さすがに私も何事かと驚きました。
ですが、ドアは開きません。私が鍵を閉めてしまったから。
それで他人事のようにぼうっとしていたら、いきなりガタン、と不穏な音がして、
びっくりした私が反射的に顔を上げると、不幸にも――あるいは、幸運にも――
蝶番が悪くなっていたらしく、私の部屋のドアが半開きになっていました。
『ねぇ、ほたるちゃん。茄子ですよー』
私は幻聴を疑いました。その声は、茄子さんにしか聞こえなかったからです。
私よりずっと忙しいはずの茄子さんが、私の家にやって来たなんて信じられなかったのです。
『可愛い後輩が元気をなくしているって聞きまして、心配になって来ちゃいました♪
この部屋に、入ってもいいですか?』
私はベッドから跳ね起きました。
ひどい顔にひどい服装のまま、小さい子供のようによたつきながら、ドアを開けました。
今の事務所に入れてもらってから、私は初めて人前で泣いてしまいました。
茄子さんの胸にすがって、忘れようと頑張っても打ち消しきれなかった不安や心細さを、
つっかえつっかえの涙声で、茄子さんに話しました。
その間、茄子さんはずっと頭を撫でてくれました。
『私はほたるちゃんに出会えたことを幸運だと思っています。
ほたるちゃんも、そう思ってくれていたら、嬉しいのですけど』
やさしい言葉をかけられるたびに、呪縛が解けていくみたいでした。
『だから、ほたるちゃんが元気になったら、また姿を見せてください。
そうすれば、また一つ私が幸せになれますから、ね♪』
その時の私の目は、泣き腫らしすぎてまともに見えていませんでした。
でも、その時の茄子さんが女神様のようにキラキラしていたのは、確かです。
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