過去ログ - 扶桑「私たちに、沈めとおっしゃるのですか?」 提督「そうだ」
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48: ◆bBUdJHUgklsz[saga]
2015/05/08(金) 00:25:13.21 ID:PYWkhYCu0

「提督、少し……お話を聞いてくれませんか?」
「扶桑?」

 比較的穏やかな表情と声色で、語り掛ける。
 なぜ、それほどまでに落ち着いていられるのか。山城のように、怒りをぶつけてほしいのに。
 そんな提督の思いも、扶桑はお見通しだった。提督が、自分たちに恨まれようとしている。
 そんな幼稚な考えなど、扶桑には通用しない。
 
「ずっと、考えてきました。出撃をほとんどしなくなってから、ずっと」

 皆が出撃していく中、自分たちだけが鎮守府に残り皆の帰りを待つ日々を思い出す。

「傷ついて帰ってきた者がいれば、私は何をやっているのだろう、と情けなく思いました」
 
 何もできない、ただ無事を祈るだけの日々が、歯痒くて、辛くて。

「帰投し、皆がつくる歓喜の輪を大外から眺めるしかなくて、素直に喜べませんでした」

 輪の中心にいる娘たちが眩しくて、目を背けてしまった、浅ましい自分の心。

「私たちは、艦娘は、海に出てこそ、艦娘なのだと……そう思い知らされました」

 ただの兵器でもない。純粋な人間でもない。そんな自分たちが存在する理由。
 艦娘という存在の意義など、考えるまでもなかった。

 大海原を駆け巡り、力の限りを尽くして戦うこと。

 それが使命という訳でもない。
ただ、それだけで、この心にできた空洞を埋めることができる。

「思えば、戦艦扶桑は、あの日、既に死んでいたのかもしれません」

 出撃がなくなった日。 
 戦に出ることがなくなったあの時から、既に存在の意味がなくなっていた。
 戦えない戦艦など、艦娘など、それはただの1人の女だ。
 それもそれで、一つの選択肢なのだろう。だが、自分はそれに納得がいかない。
 自分だって、誇りある戦艦なのだ。敵と撃ち合わず終える人生など、いらない。

「だから、提督……」

 例え、生きて帰ることが不可能な道でも。絶望しか待ち受けていないものであっても。
 
「ありがとう、ございます」

 艦娘として、最後にこのような場を与えてくれたことに。
 嘘偽りがない、本心を曝け出す。いつもと変わらない微笑みだった。



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