過去ログ - Love A-RISE
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12:野良猫 ◆oiBB.BEDMs[saga]
2015/05/06(水) 10:48:17.37 ID:JvRyHgVUO
「いいえ、私が……自分自身が気づくべきだったの。だから、あんじゅがそんな顔をする必要はないわ」

 苦しそうな表情を浮かべているあんじゅの横髪にそっと触れて、つばさは静かな口調で告げる。

「それでも私は伝えるべきでした。自分では見えないものも、見つけて教えて上げたかった。私と父の問題につばささんが気づいてくれたように、今度は私が助けたかった……」

「ありがとう。その言葉を聞けただけで十分うれしい。今の言葉だけで、私はまた歩くことが出来るよ」

 間違いに気づいたならば正せば良いのだ。それは自分の事であっても、友達の事であっても変わらない。
 人は常に正しい道に進み続けることはできないのだ。
 互いに道を示しあって進んで行く事が出来るのだ。

「また私が道に迷ったら、教えてくれる?」

「ええ。必ず」

「なら、あんじゅが迷ったら私が教えてあげるから」

「はい、お願いします」

 互いに手を取り合って、二人は頷き合った。
 はっきりと口にしなくても互いの意図は理解出来た。

「伝えて、あげなきゃだよね」

「はい。私もそう思います」

 違う道を歩いていても、同じ場所を目指しているのは変わらない。それに何より、同じ過ちへと進ませるなんて絶対に許せなかった。
 だが次の日、つばさ達の予想は大きく狂わされた。
 抜き打ちの選抜試験が行われたのだ。
 その結果、

「本日を以て統堂 英玲奈以下2名は候補生から外れて貰う」

 その言葉に一番驚いたのは、もしかしたらつばさだったのかも知れない。
 当の本人は普段と全く変わらない鉄のような面<おもて>のまま現実を受け止めているようにも見えたが、つばさは受けた衝撃を隠しきれずに、震える手を太股の下に無理やり押し込めて、ぎゅっと唇を噛み締めた。

 その日のレッスンの事はよく覚えていない。
 減った人数よりも室内は広く感じられたことだけは記憶として微かに残っている。
 同じ一年生で候補生だった彼女。言葉を交わした事は殆ど無かったが、考えている以上に親しみを感じていたのかもしれないし、そうなっていたのが自分であったかもという恐怖によるものなのかもしれない。
 
 だがそれでも、つばさは逃げなかった。

「何の用?」

 人気のないロッカールームに英玲奈の棘のある声が響く。その言葉の先には、神妙な面持ちのつばさの姿があった。

「笑いに来たの?」

「まさか」

 沈黙。

「用がないなら帰ってもらえないかしら。女同士とはいえ、着替えを見られる趣味もないから」

「話があるの、少し時間あるかしら?」

「お断りするわ」

 即答されて、つばさは思わず声を上げそうになったが、ぐっと堪えて冷静に話を進めていく。

「ならせめて、着替えている間だけでも時間をくれないかしら」

 その提案に英玲奈は無言のまま着替え始めた。それを肯定の意と認識したつばさは、せめてもの配慮として直接着替えが見えないように英玲奈の裏側の通路へと移動して話を始める。

「あなたもあのディスクは見たよね」

 英玲奈からの返事はなく、布の擦れる音だけが静かな更衣室に広がっては消えていく。

「私はいつの間にか自分自身を見失っていたの。等身大の自分を見せたかったはずなのに、気づいたら偽りの自分がそこにいた」

「何が言いたいの?」

 苛立ちを滲ませた返事が響き、つばさは小さくガッツポーズを決める。わずかにでも興味を抱かせてしまえば、まだ可能性は大いにある。

「私は例え偶像<アイドル>になったとしても、ステージの上でだけは本当の自分でいたい。だから、思ったの……英玲奈さん、『あなたは何を目指しているの?』って」

 布の擦れる音は止んでいた。

「あんじゅ……覚えているかな、あの紹介ディスクで一緒にステージに踊った子の事。あの子が言ってた。私たちはまだ生まれてもいない卵。だから、殻の色をどれだけ変えたって意味はない。大事なのは、どんな雛になりたいかだってね」

 畳み掛けるようにつばさは言う。言い続ける。

「あなたのダンスは完璧。決められた動きを忠実にこなしている。でも、あのディスクに映るあなたの顔は全然楽しそうじゃなかった。見かけは笑っていても、心が笑っていない。そんな……」



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