4:野良猫 ◆oiBB.BEDMs[saga]
2015/05/06(水) 10:34:28.58 ID:JvRyHgVUO
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レッスンは直ぐに始まった。
合同レッスンや個別のレッスンは毎日続いたが、十名も候補生がいながら、ほとんど会話はなく、互いの事などほとんど知りもしないのは変わることはなかった。
想像とは違いすぎる高校生活に最初の1ヶ月はとても辛かった。
幾度となく不安や寂しさに打ちひしがれそうになったかわからない。だが、その度につばさは、好きな空を眺めるように上を向いて歩いて来た。
2ヶ月が過ぎた頃にはもう、ほとんどそんな事もなくなり、それが日常として
定着化しつつあることに、つばさは驚いた。
3ヶ月も経てば、もう考える事もなくなっていて、それが普通なのだと言える程になっていた。
ただ、自分の心がすり減っていくのが分かることが何よりも辛かった。日を追うごとに、それまで感じていた不安や寂しさが次第に薄れていくのが分かり、孤独に鈍感になっていくのがはっきりと感じられた。
だが、何も悪いことばかりではなかった。
芸能科とは言え、いち高校生である以上、一般教養は誰しも学ばねばならない。その為、基本教科は所属する科を問わず合同で行われる。
一年生にして代表候補生ともなれば注目を集めるのは必然だったが、つばさはそんな優越感を感じさせない気さくな振る舞いもあって、 一般教養科の友人も数人出来た。
初めて応援の言葉を貰った時は、思わず涙ぐんでしまうほどに嬉しく、友人に笑われたほどだ。
応援してくれる人がいる。それはつばさにとって何よりも励みになった。だからこそ、つばさは本当に心を失わずに済んだのかもしれない。
そんなある日、つばさに思わぬチャンスが訪れる。
日曜日の午前中、つばさは休日にも関わらず、職員から呼び出しを受け登校していた。
案内されたのは職員が使う会議室。
広い室内には楕円形の大きなテーブルが置かれ、正面には大きなモニターが備え付けられている。
「私が学院の紹介映像に……」
「来年度の新入生向けに配布するディスクだが、今注目されている新入生として君にこの学院を案内してもらいたい」
メインイベントは三年生が務めるのだろうが、ディスクの内容には、つばさのダンスパートもしっかりと盛り込まれていた。
「やります。やらせて下さい!」
職員を真っ直ぐに見つめて、つばさははっきりと言った。
「新入生向けの品ということもあり、現新入生である君の意見も積極的に取り入れていきたいそうだ」
だから、どういう紹介をするか考えておいて欲しいと言われて、つばさは真っ先に屋上にあるステージを思い浮かべた。
打ち合わせを終えて、つばさは直ぐに行動を始めた。
「やっぱりここは外せないよね」
独白を開けた空へと溶かして、つばさは吹き抜けていく風を肌で受けながら、夏の日差しが照りつける屋上を一人で歩き、先ほど引き受けたディスクをどういった内容にしようかと思案を巡らせる。
「それにしても……」
やはり暑いと思い。一度、戻ろうかと踵を返す。戻りの道を歩きながら、つばさは屋上に堂々と設置された大きな屋外ステージへと視線を向ける。
「いつかあそこに立てるのかな?」
返事などないと分かっている。そして、その答えは自ら勝ち取る他にないということも。
このステージに立てるのは学院に認められたスクールアイドルだけなのだ。
今回の事も、純粋に嬉しく、そして誇らしくも感じながら、それでもつばさは決して舞い上がったりはしていない。
今に流されることなく、常に高みを目指していくのはこれからも変わらない。
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