19:名無しNIPPER[saga]
2015/05/11(月) 12:42:51.18 ID:sr/n3AUZ0
その日一日、男は極めて謙虚に仕事を進めることにした。
黙々とキーボードを叩き、完成すれば、アウトプット。
上司に提出して、次にとりかかり、その日のノルマが終わっても、手を緩めず進める。
普段ならば、休憩室でコーヒーを一杯補給するときでも我慢しよう。
男にとって、それもこれも『おおかみさん』との余計な接触を避ける為だったのだが
それが杞憂であることが分かってきた。
彼女は先刻の不満げな様子はどこへやら
真剣な様子で仕事にとりかかっていた。
宇佐義の話では、仕事に就いて一週間であるはずだが、目の端で見る限り、おそろしく手際が良い。
書類に目を通してからキーボード入力を終えるまでが、精密かつ早い。
また、クールビューティな容姿は、この会社に潤いを与えたらしく
どことなく、男性陣は身だしなみを整えており、女性陣は羨望と嫉妬の眼差しを送っているようである。
一目置かれた存在、というのが男でも分かった。
そして、宇佐義の予想が外れたと確信したのは、昼食の時だった。
『おおかみさん』はすくっと立ち上がり、つかつかとハイヒール鳴り響かせ、宇佐義の前に立った。
そして、驚いた様子の宇佐義と短く言葉を交わすと、一緒に出ていったのだ。
他の職員が首を傾げる中、彼が内心小躍りするほど喜んだ。
ただ、これは宇佐義だけには絶対の秘密にせねばなるまい。
悪魔のしっぽを踏む勇気は、これぽっちもなかった。
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