742: ◆v5iNaFrKLk[saga]
2015/08/29(土) 22:17:12.83 ID:wj7ytdM70
少しずつ視界が開けると同時に、魔王Rというクルマがより見えた気がした。
朝日さんは、提督のワンエイティと同じと云った。
この奥底から湧き上がるようなパワー。
確かに提督のワンエイティにも同じモノを感じた。
むしろクルマ自体の素性の差か、ワンエイティよりも遥かに余裕を感じる。
勿論ハイ・チューンドマシンであることには変わらない。
扱いやすさに感けていると、このRは簡単に裏切るに違いない。当然と云えば当然だ。
しかしこちらがキチンと向き合えば、このクルマはちゃんと応えてくれる。
何と優しい魔王だろう――。
それと同時に、このクルマが持つ本質が分かった。
この優しさは危険だ。
まるで甘い言葉で誘惑し、奈落の底に貶めるような。
嗚呼、それは正に悪魔や魔王の所業じゃないか。
それを理解しても尚、アクセルを緩める気が起きない。
景色が止まって見える。
このクルマとならば、運命を共にしてもいいとさえ思えた。
追い越すクルマが迫ってくる。
そういえば、提督が大事なことを言っていた気がするけど……
オ モ イ ダ セ ナ イ ヤ 。
「夕張さん」
不意に朝日さんの声が聞こえる。
それはとても優しくて。
「公道は生き残ることが全てよ。分かっているハズよね」
――意識が戻る。
そして、異常に気付いた。
「さ、300超えてる……」
現実離れした数字に血の気が引き、アクセルを抜いた。
私の知っているスピードとは、とっくにかけ離れている。
「あら。アクセルを抜いてしまうんですか」
隣の朝日さんが残念そうに言い放つ。
この人は何で平気な顔をしているんだ。
今の今まで何事も無く、セットアップを続けていたのだろうか。
私はと云うと、動悸が収まらない。
汗でハンドルが滑りそう。
やっぱり、このクルマは魔王だ。
次元が違う。
「ですが、おかげで良いデータが取れました。有難うございますね」
「は、ハハ……いえ……」
いつも通りの柔和な表情を浮かべる朝日さん。
多分私の顔は、馬鹿みたいに引きつっていただろう。
902Res/673.84 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。