過去ログ - 長門「ユッキー……私の事を呼ぶならそう呼んで」
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11:名無しNIPPER[saga]
2015/05/17(日) 23:41:43.88 ID:Flc7T4o40


図書館に足を踏み入れた長門有希は、本棚の間でしばらく硬直していたが、やがてゆっくりすぎる動きで館内を見渡すと、朦朧とした足取りで本の海に呑まれていった。
まあ全て俺の主観でしかないから、長門有希が本当に浮かれていたかどうかは分かりかねる。
何事もなく本を返し、長門を探すと、本棚の前で腕が折れてしまいそうなほどぶ厚い本にかじりついていた。
相も変わらぬ表情だが、今までにない覇気を感じる。気がする。


「おい、長門」

「……」

「長門」

「……」



返事はおろか反応ひとつしやしない。
これは完全に空想世界へダイブしてしまっているな。
このまま帰ってしまおうかという考えがちらと頭を過ぎったが、流石にそれは気が引ける。
帰り道も知らないだろうし、何より、閉館時間どころか地震雷火事親父が来てもその場に根を張って動きそうにない長門有希に、俺は少々不安を覚えた。



「長門」



肩を揺さぶると、ようやく精神が帰還したらしく、長門は顔を持ち上げた。
のろのろというか、しぶしぶというか、とにかく、俺が思わずたじろぐほど、人間じみた動きで。



「……何」

「いや。……その本、そんなに面白いか?」

「……興味深い」

「借りるか?」

「どうすればいい」



即効返事上がり調子第二段。
さっきより随分分かりやすくなったと思うのは、長門有希が心を開くようになってくれたからか、俺の観察眼が鍛えられたからか。
はたまた、全部が俺の妄想か。



「ああ。カードは持って……ないよな。作りに行くか」

「……カード」



そこで長門は本を閉じた。
連れて行けということだろう。
その後、まるで宝物を守る小学生のように本を抱えて離さない長門有希の代わりに手続きを終え、図書カードを作成してやった。
カードを手渡すときでさえ、こくりと首を落とすだけだった彼女だったが、何となくその目は輝いているように見えたようなそうでもなかったような。
ともあれ図書館デビューおめでとう長門、これからは本が読み放題だな。
せいぜい中毒をこじらせないようにするといい。
そのことがあったからというわけではないが、何となく、なんとなあーく俺たちは言葉を交わすようになっていった。
彼女は休み時間にはいないから、ホームルーム前の僅かな時間に限られたが。
愛想皆無の態度に、もしや迷惑なのかもしれないとも考えたが、長門は無口であって内気ではないから本に集中したければしたいとはっきり言うだろう。
黙って会話に乗っかってくれているのだから、少なくとも邪魔とは思っていないはずだ。
多分な。そうだと思おう。





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