102:名無しNIPPER[saga]
2015/06/19(金) 07:11:21.37 ID:978zBMZDO
夜の繁華街。人混みの中を宛てもなく歩く。食品、衣料品、ホビー、雑貨。様々な店が立ち並んでいた。しかし、そのいずれも見覚えが無い。
店の名前や扱う商品から手掛かりが掴めるかとも思ったが、そう上手くはいかないようだった。
「……まいったな」
ふと、そんな言葉が口からこぼれ落ちた。この租界に来て一週間が過ぎた。にも関わらず、何一つとして進展が無い。もはや記憶を取り戻す可能性は極めて低いと思われた。
このままではいけない。
ずっとそう思っている。今のままの生活を、長く続けてはいられない。焦燥感は日を追うごとに大きくなっている。罪悪感もだ。これだけは現状はっきりしている数少ないものである。
記憶が戻らないならば、せめて、何か手に職をつけないと。今のままアッシュフォード家に寄生してはいられないのだ。自分の足で立てるようにならなければ。
どうしたものか。
視界の端に映ったベンチに近寄り、腰掛ける。この位置からだと、道行く人の姿がよく見えた。立ち並ぶ店の灯りが、夜の街を彩っている。名前も知らない人達が、その光の中で躍っている。
「…………」
彼ら一人ひとりに帰る場所があり、やるべき事がある。なにより、自分だけの記憶がある。違うのは一人だけ。このベンチに座っている男、ただ一人だ。
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