113:名無しNIPPER[saga]
2015/06/19(金) 20:32:18.16 ID:978zBMZDO
誰もいないバルコニー。凝った意匠の柱が、ガラス張りの屋根を支えている。周囲には色鮮やかな花々が生い茂り、楽園のような印象を与えていた。美しい色の数々。ここには確かに、安らぎがあった。
──理想郷。
そんな言葉が心の中に浮かび、また埋没していった。何だったのだろう。そう考える暇も無く、後ろから来る気配に振り返った。カラカラと回る一対の車輪。車椅子の音だった。
中等部の制服を着ている事からも分かる通り、ライより年下の少女だった。美しい曲線を描く、ブロンドの髪。両目は閉じられているが、その表情を向けられたらどんな人間でも心を開いてしまいそうだ。
少女の事は知っていた。ルルーシュの妹である。名を、ナナリー・ランペルージという。
彼女の車椅子を押しているメイド服の女性は、篠崎咲世子。名誉ブリタニア人だ。アッシュフォード家に雇われている侍女らしい。
「…………」
ナナリーとも咲世子とも、初対面ではなかった。挨拶くらいしようと口を開いたが、言葉は出なかった。二人の……違うナナリーだ。彼女を見た瞬間、頭の奥で火花が散った。
「……お兄様?」
ナナリーの小さな口から、疑問の言葉がかけられた。お兄様──どういう事だろう。僕はルルーシュじゃない。頭の中で飛び回っていた火花が止み、ようやく言葉を発する事が出来た。
「あ……」
零れ出た言葉は、なんとも間抜けだった。
1002Res/860.00 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。