188:名無しNIPPER[saga]
2015/06/26(金) 00:06:14.85 ID:AcBC3WIDO
 「ほら、見せてみろ」 
  
  
 少女の細い指が伸びてくる。払いのけたかったが、それすらも出来なかった。いま触れられたら、きっとこの体は砕け散る。そんな恐怖が、混乱の渦を加速させた。 
  
  
 左目を抑えていた手があっさりと退けられた。まぶたを押し上げられ、眼球が露出する。映るのは少女の顔。少女の瞳。その奥にある、力の渦。 
  
  
 「……あ」 
  
  
 間抜けな声が出た。痛みは治まっていく。まるで波が引いていくかのように。拍子抜けするほどあっさりと。 
  
  
 どっと汗が噴き出してきた。呼吸もだ。痛みをこらえるべく、押さえつけていたものが堰を切って押し寄せてくる。 
  
  
  
 「妙な奴だ。人の顔を見るなり、いきなり倒れ込むとは」 
  
  
 「……君は、何者だ」 
  
  
 死にかけの、老人のような声だった。 
  
  
 「それはこちらの台詞だろう」 
  
  
 少女は地に伏す虫けらを見るような目をこちらへ向けていた。 
  
  
 「──お前こそ、誰だ?」 
  
  
 「………!」 
  
  
 小さな呟きだった。その一言で視界が、意識が揺らぐ。ひどく不安定だ。自分という存在が消え去りそうだと思える。こんな、簡単な問いかけ一つで。 
  
  
 「僕は……」 
  
  
 だが、明確な答えを用意出来るはずもなく。 
  
  
  
 「僕は……誰だ」 
  
  
 そう問い返すことしか出来なかった。 
  
  
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