279:名無しNIPPER[saga]
2015/07/03(金) 01:09:39.37 ID:XSwai4zDO
あの夜は、大きな満月が輝いていた。見知らぬ街と、会って間もない少女。そして、何も無い自分。何も知らない世界。
「また」
「え……」
「また考え事をしてたでしょ」
カレンはライの、こうした変化に良く気づく。いつのまにか上の空になっていたようだ。
「あの日の事を考えていた」
「あの日?」
「君と初めて租界を歩いた時の事だ」
「ああ……」
別に隠す事でもないと思い、正直に告げる。カレンは言葉を濁して、こちらに向けていた目を逸らした。無理もない。ライにとっては大切な思い出でも、彼女にとっては数ある厄介事の一つに過ぎないのだろうから。
「最初の日と比べると、だいぶましになった」
思い出すのは月下の歩道。離れた距離。彼女の背中。
あの時は嫌われたと思ったものだ。この距離は埋められないと、どうしようもない無力感を抱いていた。
それがどうしてか、未だにカレンは世話係を続けてくれている。未だに手を引いてくれている。あんなに遠くを歩いていたのに、気づけばこうして隣を歩いてくれている。
ありがたい事だと思った。
「……そうね」
ライの感傷をよそに、カレンは素っ気なく歩き出す。その背中に、意を決して言った。
「行きたい場所があるんだ」
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