333:名無しNIPPER[saga]
2015/07/18(土) 10:45:55.10 ID:oFzwPuzDO
「なにを読んでいるの?」
隣に座っていたカレンが横から覗き込んでくる。ごく自然な動作。彼女の赤い髪が肩に触れそうなほど近い距離まで迫ってきて、シャンプーの甘い香りが鼻腔をくすぐった。
普段の、他人に興味を抱かず、物理的にも精神的にも距離を置いているカレンからは想像出来ないくらいに近く、気やすい。あの寂れた公園での一件以来、彼女の表情や仕草が目に見えて明るくなった。理由は分からないが、心を許してくれたのかもしれない。
しかし、ライの意識は未だに文庫本の方へと向いていた。学園でも一番人気の美少女が傍らにいるというのに、その態度に変化はなかった。
「珍しいわね。恋愛小説なんて」
「……こんなに難解な書籍は初めてだ」
「まあ、そうでしょうね」
苦々しく言うと、カレンはくすりと笑った。上品で一分の隙も無い。あの時に見せた苛烈な言動が嘘のようだった。
「君は恋愛事に詳しいのか」
「え? ど、どういう意味よ」
「僕には理解出来る兆しすら無いが、君は違うだろう」
なにせ、学園に親衛隊が創設されるほどの人気だ。彼女なら交際相手など選び放題だろう。そう思って尋ねたのだが、不思議な事にカレンは顔を赤くした。
「詳しいわけないでしょう」
「なぜだ」
「な、なぜって言われても。男の人と付き合ったことないし……」
「交際経験がないのか」
「そ、そうよ。悪いかしら」
カレンの紅潮は顔全体に及んでいた。突然の質問責めに羞恥心を刺激されたのか、彼女はギロリと睨んでくる。
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