361:名無しNIPPER[saga]
2015/07/23(木) 21:45:58.72 ID:jVTaH5bDO
「そうだな。困ったものだ」
頷くが、彼女は気に入らなかったらしい。半目でじろりと睨まれる。
「……あなたが一番、私を困らせているのだけど」
「……すまない」
「でも、冗談抜きにあと少しで思い出しそうな雰囲気はあるんじゃない?」
その言葉には妙に力がこもっていた。
「そうだろうか」
「この前、あなた自分からゲットーを見てみたいって言ってたでしょう? あれも記憶に関係あるんじゃないかしら」
「……確かに」
「次は、眺めるだけでなくて、実際に歩いてみる? シンジュクゲットーとか」
シンジュクゲットーはトウキョウ租界から出てほど近い場所にある。つい最近、レジスタンス組織とブリタニア軍が衝突し、その戦闘で皇族のクロヴィス前総督が戦死したため大きな話題を呼んだ。
そしてそこは"黒の騎士団"の総帥である"ゼロ"が、初めて姿を現した場所でもある。
「いや、駄目だ。危険過ぎる。確かにゲットーは記憶と関係があるかもしれないが、君を連れていくことは出来ない」
ゲットーでは抵抗勢力とブリタニア軍による戦闘が頻繁に発生している。治安も悪いし、衛生的にも決して良くはない土地だ。
そんなところに、カレンを同行させるなど許されない。怪我や病気どころか、下手をすれば命を落とすかもしれないのだ。
「…………」
「…………」
ライがカレンの提案を突っぱねるのは珍しい。初めてと言っても良かった。だが、彼女は驚きもせずにこちらを見据えてくる。
おしとやかなお嬢様の物でもなく、あの公園で見せた苛烈な物でもない。彼女の瞳が何を映しているのか、何を表しているのか、ライには想像も出来なかった。
沈黙。夕焼けの光が二人を包み込む。カラスの鳴き声が、遠い空に溶けていった。
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