382:名無しNIPPER[saga]
2015/07/29(水) 19:25:51.12 ID:RvzOFB6DO
親子三人が並んで歩く。左手に買い物袋を持って、右手は母の手を握っていた。
途中、クレープの出店があった。母の足が止まる。手が離れる。
(はい、これ)
何故か焼きたてのクレープを渡される。どうしてか分からず、首を傾げていると、
(この間、100点取ったご褒美。ナオトもいる?)
(いいよ。食いたかったら自分で買うし。……どうした?)
右手にクレープを、左手に買い物袋を持ったまま母の手をじーっと見ていると、兄がそれに気づいたらしい。自転車のカゴに入っていた学生鞄を背負うと、妹の持っていた買い物袋を奪ってその中に入れた。
(これで母さんと手、繋げるだろ)
やっぱり最高の兄だと思った。クレープを差し出す。一口くらいならあげても良い。続いて、母にも一口。女性らしく、髪を手で押さえて食べる仕草はどこまでも優雅に見えて憧れた。最後に自分で頬張る。うん、美味しい。きっと、この味は一生忘れないだろう。
(あんまり食べ過ぎると晩御飯、食べられなくなるぞ)
これくらい平気。
(……将来、お前と付き合う奴は大変だろうな。ワガママだし、人の言うこと聞かないし、頑固だし)
良いの。
(……いや、だから良くないって)
左側を歩く兄とじゃれあい。右手で母の手を握る。暖かくて、柔らかい指。大好きだった。
夕日に照らされた町。行き交う人々。家族三人で並んで歩く。いつもの日常。ずっと続くと思っていた。
夢を見ている。
叶わない夢を。
1002Res/860.00 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。