391:名無しNIPPER[saga]
2015/07/31(金) 18:08:48.31 ID:TYp+eNeDO
不意に、部屋のドアがノックされた。
「おはようございます、お嬢様。お目覚めでしょうか」
侍女の声が扉越しに聞こえた。この豪邸には何人もの家事手伝いが住み込みで働いている。その中で、いま部屋の前にいる女は唯一の名誉ブリタニア人だった。
部屋主の気分を損ねない、完璧な声掛け。朝の日差しのような穏やかさ。
違う。こんなのが欲しいのではない。
鏡に映った自分の顔が、醜く歪む。
「前にも言ったでしょう。一人で起きられるから、こういう事をされると迷惑なの。もうやめて」
口から出た言葉はひたすら攻撃的で、陰湿だった。
「かしこまりました。朝食の準備が出来ておりますので、いつでもお申し付けくだ──」
なのに、気分を害した様子もない。いつもと変わらない、他人行儀なお節介が続く。
限界だった。
「わかったから、あっちへ行ってっ! もう、構わないで……!」
「…………」
沈黙。相手がどんな顔をしているか分からない。笑顔でない事は確かだったが、他は何も分からなかった。
分からないのだ。何も。
「申し訳ありません。出過ぎた真似でした」
そう言って、気配が遠のいていく。もううんざりだった。
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