393:名無しNIPPER[saga]
2015/07/31(金) 18:15:17.56 ID:TYp+eNeDO
どこまでも居心地の悪い家だ。
逃げるように外へ出るのも無理からぬことである。カレンにとって、この家の価値といえば良質なシャワーと清潔なベッドがあることくらいだった。
出来ることなら近づきたくない。
門の近くには壮年の男性が立っていた。家付きの運転手だ。アッシュフォード学園に通う時は、彼の運転する車を使う。この家では珍しく、カレンに対して普通に接してくれる人物だった。
「おはようございます、お嬢様。今日は休日ですが、どこへお行きに?」
優雅な動作で頭を下げ、微笑みをもって尋ねてくる。口元に蓄えた髭と丸眼鏡には不思議な愛嬌があった。
「ちょっと学園まで、ね。学園祭の準備があるから」
カレンは学園の制服を着ている。行き先としては不自然ではないだろう。
「なるほど。車の用意は出来ておりますので、少々お待ちください」
「いえ、大丈夫。今日は寄っていきたい所があるの」
「でしたらお送りします。……いや、失礼。お嬢様もそういう年頃でしたな」
運転手は申し訳ないと謝罪し、道を譲ってくれた。彼の変な詮索やお節介をしない所は好感が持てる。ビジネスライクというか、自身の領分をきちんと把握している人間は、この屋敷では数少ない。
カレンは付近のバス停まで歩いて行って、そこで乗車した。モノレールのターミナル行きのバス。アッシュフォード学園とは真逆の方向だ。
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