457:名無しNIPPER[saga]
2015/08/15(土) 17:36:52.94 ID:96BNk38DO
「倒したの?」
未だに信じられず、カレンが呟く。
「なんとかな。運が良かった」
嘘ばっかり、とカレンは思った。何から何まで計算尽くの戦い方を見れば分かる。危なっかしさなど微塵も無い、完璧な戦闘機動。先ほどまであった恐れは妙な高揚感と安心感に姿を変えていた。
ライの横顔を覗き見る。やはり、カレンが今までに見たことのない顔だった。笑顔ではない。怒りでも恐怖でもなく、愉悦や慢心でもない。
戦闘中、彼が発したのはカレンを気遣う言葉だけだった。怒声や罵声などは一切ない。笑い声もだ。ライが戦いを楽しんでいるわけではないのは明らかだった。
薄暗いコックピット。モニターのバックライトに照らされた横顔を見つめる。その中に輝くものがある事に気付いた。
瞳だ。
蒼い瞳。いつもは感情を映さない瞳に、今は何かが宿っている。それは確かな輝きを放っていた。燦然と瞬く意志の光。その光の中に、彼の正体に関する答えがあるような気がした。
穢れが無く、淀みも無い。どこまでも澄んだ、それでいて強い輝き。果てしなく長い年月を掛けて鍛えられ、研ぎ澄まされた光の剣だ。そこに彼の歴史がある。しかし残念なことに、形容する言葉が見つからなかった。おそらく、この光を言葉に出来る者はいないのだろう。
その光を覗き込んだとき、たまらなく美しいと思ってしまった。心を奪われるとは、こういうことを言うのかもしれない。
「…………」
ほう、と熱い吐息が漏れる。わけもなく胸の奥が締め付けられた。初めての経験だった。
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