957: ◆QH3tH0UkImyM[saga]
2015/12/01(火) 08:36:24.54 ID:IN4redvDO
自分はどこかで、間違いなくこの紋様を目にしている。
そう認識した途端、ライの意識は暗闇の中に放り出された。
誰かが泣いていた。ウェーブの掛かった黒い髪、細い背中。白く細長い指で、その顔を覆っている。
自分はそれを、物陰からじっと見ていることしか出来なかった。幼い我が身に成せることなど何もないと、気味が悪いほど発達、成熟した理性が言っている。
誰かに手を握られた。
小さい背丈。黒い髪に黒い瞳。容姿はあそこで泣いている人物をそのまま小さくしたようだった。彼女の娘なのだから当たり前だ。
少女は母の姿を見て、何かを堪えるように俯いた。しかし堪えきれず、その瞳から涙が溢れる。肩が震え、漏れ出す嗚咽を押し殺そうと、必死で口を閉じていた。
自分は少女の頭に手を置き、不器用な仕草で撫でてみた。他に方法など思いつかなかった。泣いている人を慰めることは何より苦手だった。
涙は嫌いだ。
強くそう思った。
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