13: ◆8HmEy52dzA[saga]
2015/06/18(木) 23:35:47.42 ID:jPdfGr6q0
「水嶋……咲は、私のいとこです」
「そうですか。道理でよく似ている」
「咲は先日、勉強の為にアイドルも退き、海外へ留学が決まりまして」
「…………」
目を見開いて、茫然と口を開く黒野くん。
あたしは卑怯だ。
この状況を招いたのは、どっちつかずの立ち位置を取っていたあたし。
黒野くんの想いに応えるのならばあたしは女の子になるべきだったし、そうでないのなら、僕は完全に彼を拒絶するべきだった。
どっちにもなれなかった、あたしと僕の責任。
「黒野さんには随分お世話になったようで……妹から、黒野さんに言伝があります」
僕は男の子なんだ、と黒野さんに伝えてあたしを続ける選択肢も、あるにはあった。
でも、それは僕があたしを否定することになる。
それだけは、出来ない。
アイドル水嶋咲も、今の水嶋咲も、水嶋咲には変わりない。
責任を取る、なんて格好いいものじゃない。
単純に、どっちにもなれなかった僕はいつかこうなる運命だったのだろう。
あたしに悔いはないと言えば嘘になるけれど―――それでも、こんな滅茶苦茶な舞台、いつか終わりは来る。
幕が降りるのが少し早かった、それだけの事だ。
もう僕はあたしにはなれないけれど。
水嶋咲はここにいる。
だから、これはあたしを好きになってくれた黒野くんへの。
どっちつかずの、僕の答えだ。
僕とあたしの影が重なる。
「『アイドル水嶋咲は、貴方に全てを捧げます』」
それはどちらの言葉だったのか、僕にはわからないけれど。
あたしの全てを黒野くんに渡して。
僕は僕として生きていこう。
あたしはもう、どこにもいない。
END
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