過去ログ - タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part3
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名無しNIPPER
[sage]
2016/02/05(金) 20:06:43.06 ID:rzP7yH580
>>708
「夏桜」
「桜を見に来ないか」
普段からポーカーフェイスで、感情が読みにくい上、
いつも此方から話しかけなければ口を開かない、開いても口数はそう多くない友人が、
珍しく声をかけてきた。
しかもこの時分に桜。どこで見られるというのか。梅雨がようやく明け、
これから暑さも日差しもつらい季節になっていくというのに。
いぶかしげな顔をしていると、そいつは「嫌ならいいんだが」と言った。
少し寂しそうな顔だ。ほとんど変わらない表情から感情が読める程度には仲良くなれている証拠だろうか。
いや、わかりやすいほどに顔に出るのは珍しい。
驚きすぎて返事をし損ねていたら、そいつは諦めたのか手元の本に目線を戻した。
あわてて承諾の返事をすると、少し驚いたように微笑んで「そうか。じゃあ今日うちに来い」と言った。
友人が、笑った。今日は珍しいことだらけだ。
放課後、約束どおり友人の自宅へ向かう。
その道中も、やっぱり話しかけなければ無言が続く。
話し続けていなければつらいわけではないし、二人並んでゆったりただ歩くこの時間はわりと好きだ。
もう少し涼しければ申し分ないのだが、いかんせん真夏がすぐそばまで来ている現在では、そういうわけにもいかない。
学校からも、自宅からも、そこそこ距離のある友人宅だが、もうずいぶんと通った。
方向音痴気味な自分でも、一人で悠々、辿り着けるようになっている。
こうなるまでは、迷う度に友人を呼び出したが、嫌な顔ひとつせず迎えに来てくれた。
そういうやさしい奴だが、寡黙で、何を考えているかわかりにくいせいで、友人が少ない。
むしろ、自分以外の人とは事務的なこと以外には、話すことはない。
以前、聞いたことがある。「家に招くどころか、一緒に遊んだ友人などいなかった」と。
こいつの良さに気づいてくれる人に出会ってこなかったようだ。
「こっちだ」と友人に声をかけられるまで、すでに家の前に来ているということに気がつかなかった。
友人は、玄関の左手にある庭の入り口に立っていた。
そういえば桜を見に来たのだっけ。目的を忘れるところだった。
でも、桜の木なんてあったっけ、などと考えながら、庭に入った。
庭には、桜色がめいっぱい広がっていた。
驚きと感動で、何も言えず、友人を見ると、「俺が自分で世話したんだ」と少し恥ずかしそうに言った。
「見事だな」と伝えるのが精一杯だった。花には詳しくないが、この数の世話は大変だっただろう。
自分だけがこれを見るのはもったいない、と思ったので、クラスメイトにも見せてみないかと持ちかけたが、
「これは、お前にだけ見せたかったんだ」とポーカーフェイスはどこへという程に、顔を赤くして言った。
何故か、友人にとって自分が特別なのだ、ということが誇らしくなって、
「じゃあ俺たちだけで花見だな」と言って、縁側に座った。
俺たちは、庭いっぱいの絨毯の色がわからなくなるまで、ただ並んで眺め続けた。
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