過去ログ - タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part3
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812:3/3[saga]
2016/03/03(木) 23:14:19.93 ID:lLJ9XJv3o
>>787

もはや形容できない形相を浮かべて立ち尽くす家主を視界の端に追いやり、伸びた屋敷の影を踏みなぞる。

玄関から15歩あまりの門扉へ見やると、あの老人が私を見送りに佇んでいた。


伊織「まだなにか?」

幽霊『そろそろお迎えがくる予感がしての。 冥土の土産に話でも、とな』

伊織「……口の多いおじいさんね」

幽霊『ほっほ。 生き生きとしとるじゃろ』


死人に口なし、と知ったようなことを吹聴する輩は一度彼らと話してみるといい。 故人は総じてお喋りである。


伊織「もう一匹の蝿はやっつけましたよ」

幽霊『じゃろうなあ。 お主のような見どころある娘が欲しかったわい』

伊織「まさか」


死人を目に映し、ましてやそれを金儲けの道具に利用する女など誰が娘に欲しがるというのか。

この老獪は自分の見どころのなさに気づいていないようだ。


幽霊『じゃが、あのような娘でもワシがくたばれば態度を改める……そう考えていたワシはやはり甘いのかもしれぬのう』

伊織「家族なんてそんなものです。 血がつながっていても絆がなければただの他人、逆もしかりですよ」

幽霊『ほっほ、ケツの青いガキがいいよるわい』

伊織「……ですが」


札束で膨れ上がったアタッシュケースの封を切ると、ボトリと勢いなく木彫りのフクロウが吐き出される。

ついでに無造作につかんだ博文の群れと一緒にそれらを押し付けると、老人は目を力の限り見開いた。 やはりあの義娘あってこの親である。


伊織「きっとお孫さんは、こんなものをあなたにプレゼントするほど好きだったのでしょう。 ああ、このお金は三途の川代です」

伊織「家族だのなんだのと、ジジイのくせに女々しくてうっとおしいのでさっさと成仏してください」


幽霊『…………ふ、ふほほはははっ! こいつはいい、次に死んだ時もお前さんに頼むとするかのう!』

幽霊『じゃから、一目で分かるようにこいつはお主が持っとれ。 ―――ではな』


まばたきの後、彼の姿は私の視界から完全にかき消えていた。 もう一度まばたきをするが蘇ることはない。

きっと彼は成仏したのだろう。 いちいち感傷に浸るのも馬鹿らしいので、私は次の仕事に向かうため歩を早めた。


今日の収入、2906万円と小さなフクロウ。

遺品整理士、片倉伊織は今日も死者と語り合う。



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