285: ◆jSMhOnCsDM[saga]
2015/08/19(水) 23:15:01.58 ID:hgPDEe+R0
何かしら言葉が耳に入ってきて、ゆらゆらと手が振られて、足取りも軽く執務室へと向かっていく目の前の彼女。
止めなきゃ。
いま止めないと、取られちゃう。
右足を一歩前へ。落ち着いて……。
軽く息を吸って、言葉を発しようとする。
口を開いたけどダメ。これじゃ弱すぎる。
もう一回吸って、今度はもっと強く。
音を発した振動。
成功したみたい。口から何かしら言葉が出た。
一呼吸置いてから、遠ざかる夕立が再び向き直る。
不思議そうな声。うまく聞き取れない。
視界は真下で、ほとんど見えていないのと同じ。それに加えて、帽子のつばが目の前を余計に見えにくくしている。
耳に入り込もうとする言葉を手で払って、今度は自分が何かしら言葉をぶつけた。
止まる声。沈黙。
聞き返す声。遮る。
もう一度だけ繰り返し、ぶつける。
もっと強く、はっきりと、
もっともっと、強い振動で。
止まる声、沈黙。沈黙。
漏れ出るような声と、白いタイルの床。よく見ると綺麗だと思う。
その白い床を見ながら離脱。どうしてか、ここは危険だと感じた。
走る。これはこれでまた別の振動。
後ろからも追いかけて走る音、声。
廊下で響き渡る音。向こうもだいぶ本気みたい。
少しペースアップしてみると、反響してさらに大きくなった。
一瞬だけ付いてきて速くなり、
そして止まった音が遠ざかっていく。諦めたみたい。
置いて行く声、足音。
私は咄嗟に部屋へ駈け込んで、頭から布団を被っる。
もう視界も真っ暗だし、音も何も聞こえない。脳裏には明日の計画だけが焼き付いていた。
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