421: ◆jSMhOnCsDM[saga]
2015/09/07(月) 23:27:42.97 ID:ojsm9+i20
神通「そこまで言われると……」
彼女は左手を頭上にかざした。ゆっくりとした動作だった。全体的に白い第二種軍装に身を包んだ男は、ただ椅子に座ってその様子を眺めている。
神通「我儘を言ってしまいますけど、私は提督と居たいですね」
提督「つまりケッコンか」
神通「カッコカリですよ?」
提督「うん、まあそうだけど」
彼女がかざした左手を名残惜しそうに降ろすのを見届けてから、男は両手を組む。それからふぅ、と一つ息を吐き、額を組んだ手に乗せるような形で下を向いた。
じっと机を見つめる。そこには何もなく、見えるであろうものといえば自然な木の色をした机だろうか。しかし彼は、べつに机を見たいわけではない。見たいものはその下にある引き出しだった。もちろん机に阻まれて直接は見えないのだが。
神通「すみません、我儘ですよね……」
提督「いや……。なるべくなら艦娘の希望は優先させたいんだ。ひとつの意見として覚えておくよ」
神通「『一つ』ではないかもしれませんよ?」
提督「……その時はその時」
神通「ジュウコンは視野にないのですか?」
沈黙。秒針が五回ほどがなり立てる。
それからまた溜め息を吐いて、彼は手元の引き出しに指をかけた。木製で、開くと乾いた音がするものだ。金属製で鍵付きのものがすぐ近くにあったが、そちらはあまり使っていない。
提督「これが例のやつ。見ての通り、いまは一人分」
神通「……………………」
提督「とにかく事実確認で本部に連絡してみないと」
神通「あ、それは無理ですよ」
提督「えっ」
神通「混雑してるみたいで、朝からずっと繋がりません」
提督「あー…………」
神通「でもこうして書類も届いたことですし、本当なのでは?」
提督「……なんかこう、やけに落ち着いてるな」
神通「薄々ですが予想はしていましたから。なんだかそんな予感がしたんです」
提督「…………ほう」
窓の外は相変わらず穏やかな海。どうやらつい先ほど『平和な海』になったらしい。
軍服姿の彼には昨日との違いがわからなかった。艤装を身に付け砲火を交え、海を駆け巡った彼女でさえ、その違いは歴然としていない様子だ。実際に大した変わりもない。そこは元々、そういう海だった。
彼女はバツが悪そうにその海を見る。それを確認して、彼もゆっくりそちらを向いた。
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