3:オータ ◆aTPuZgTcsQ[saga]
2015/07/13(月) 17:48:49.36 ID:pbmAn6xEO
二十年前、僕はまだ幼稚園児だった。
幼稚園児なのに、もう世間から浮いていた。
頭はそれなりに回る方だし、運動も特に不得意な訳ではない。
だけど、まわりの人間とどうしても馴染めなかった。
みんな、あまりにも子供すぎて、幼さについていけなかったのだ。
その結果、僕は保健室にいる。
保健室はいつも優しく僕を待っていた。
教室のような騒がしさも、家にいるときに必ず耳にする怒鳴り声も、ここはなにもよせつけない。
世捨て人のような気持ちで、僕はベッドに横になった。
しかし、今日は隣のベッドに誰かいた。
その子は一際目を引く姿で、髪は銀色に輝き、真っ白なワンピースを身にまとっていた。
僕は思わず声をかけた。
「こんにちは。キレイな髪だね」
すると、彼女はうっとうしそうな顔をしてこちらを見た。
「突然なんなの?口説くつもり?」
言葉の意味が分からず慌てていると、女の子はため息をついた。
「話しかけるんなら名前くらい名乗りなさいよ」
僕は、しどろもどろに自分の名前を告げた。
しかし、女の子は名乗ろうとしなかった。
「別に私の名前なんて知りたくないでしょ」
「そんなことないよ。教えてくれないの?」
「そうね……このバカみたいな場所から連れ出してくれたら、教えてあげる」
それって、ここから抜け出すってことだろうか。
考えただけでドキドキする僕を横目に、彼女はもう一度ため息をついて、ベッドに横になった。
ちょっとほっとした反面、大きなチャンスを失った気がして、僕もベッドに横になる。
やっぱり諦められなくて、女の子に色々と話しかけた。
「何才なの?」
「……一応、五才」
「好きな食べ物とかある?」
「そんなことどうでもいいでしょ?」
「海は好き?」
「海なんて知らないわよ、いい加減にして」
ごろんと背を向ける彼女に、僕は自分でも決意が出来ないまま声をかけた。
「明日、海に行かない?幼稚園が終わったあとに」
彼女は微かに花の香りをさせて、なにも答えなかった。
僕は保健室の白い天井を見上げて、そっと目を閉じた。
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