過去ログ - 紬「桜の樹の下の彼女」
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2:名無しNIPPER[sage saga]
2015/07/17(金) 17:00:08.63 ID:2FTYkEm5o

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「紬さん」


しっかりとしたスーツに身を包んだその青年は、今日も私の名を呼ぶ。


「紬さん、生きてますか?」

「……生きてますよ。まだ死ねませんから」

「それはよかった」


無駄に広い庭で何をするでもなくベンチに腰掛けて桜を眺めていると、死人のように見えるのだろうか。
私は本当の死人の顔を知っているけど、今の私があれと同じ顔をしているのかまではわからない。


「俺は今でもこの屋敷に顔パスで入るのに慣れないんですよ」

「そうですか」

「たとえ貴女に呼ばれたんだとしても、ね」

「私、呼びましたか?」

「あの日からずっと呼んでるでしょう。15年前の、あの日からずっと」

「でも、来たのは貴方だった。いつも、いつも」

「それもそうですね。貴女の望む俺は、まだ来ません。俺は花を供えに来ただけです」


眉目秀麗、という言葉が何より似合うその青年も、桜の樹の下に死体が埋まっていることを知っている。
だからこそ、この庭に自由に出入りできる。この庭は彼のためにある。


「お仕事のほうには慣れましたか?」

「ええ、おかげさまで。こうして抜け出しても怒られない程度には」


彼の就職の世話をしたのは私だ。彼には幸せになってもらわないといけない。
しかし、同時に彼には悪人になってもらわないといけない。私と同じくらいの悪人に。
幸せな悪人になってもらわなくてはいけない。それが私の望み。



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