過去ログ - 村娘「勇者様ですよね!」勇者?「違うが」
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62:名無しNIPPER[saga]
2015/07/31(金) 14:17:16.11 ID:7PIjQxPMO


──────── 最後にサキュバスの一人を見送った跡には、風の音すら鳴らない。


それまで止まっていた時間が動き出し、そして再び静寂が戻って来た。

だがそれは時間が止まっているのではない。

僅かな停滞を挟んだ後に動き出す為、波が引いた跡に残る寂しさに近いのだ。

少なくとも『彼』は、そう思っていた。


───── バタン


小さな一軒の小屋の扉を一度閉じた『彼』は、山道へと続く小屋の裏手へ回り込む。

そこにはつい先日『彼』が作った墓標がある。

かつて愛し合っていた、妻が眠る墓。


勇者?(『お前』のおかげで、暫く退屈はしないみたいだよ)


壮年の顔つきだった『彼』は墓の前で膝を着くと、一瞬だけ幼い子供の笑顔を作り向けた。

その様を見る者が居れば或いは恐怖したのかもしれない。

しかし、『彼』にとって本来の姿とは、墓標の中で眠る者の在りし日に見せていた幼い姿だった。

暫く微笑む。

『彼』はゆっくりと立ち上がり、山道を眺めながら墓標へ語りかけた。

それは、短い別れを告げる言葉。


勇者?(まだ上手く調節が分からなくてな、暫く会えないみたいだ)

勇者?(ここで眠るお前にとっては二十年近い別れになってしまうが、許せ)



『彼』は背後の小屋へ歩き出す。

山にある筈の風も、虫も、動物もその姿を見守るかのように静かである。

小屋の前へ向かいながら『彼』は再び壮年の男性となり、木製の扉を開きながら一言残した。





勇者?「……じゃあな、  『魔王』   」



軋む音が鳴り響き、その扉が閉じたのと同時に『彼』は世界から消えた。

刹那、止まっていた時間が動き出した様に
その小屋がある山を一斉に突風が襲う。

数時間前までいたサキュバス達の気配も、数日前に来ていた村娘の声も、勇者と呼ばれていた壮年の『彼』も、そこには残っていなかった。


誰もいなくったその小屋に、遅れて来てしまった一人の若いサキュバスが訪れた時。

人知れず時間が動き出したのだ。





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