過去ログ - 北条加蓮「一番の宝物」 -SS速報VIP

過去ログ - 北条加蓮「一番の宝物」

↓ 1- 覧 板 20

1:名無しNIPPER[saga]
2015/08/09(日) 18:22:23.09 ID:ZDNFok4L0

――秋の始まりの頃から、北条加蓮の様子が少しおかしくなった。

SSWiki : ss.vip2ch.com

2:名無しNIPPER[saga]
2015/08/09(日) 18:22:41.64 ID:ZDNFok4L0
歌や曲から物語を創るシリーズ。シリーズと言っても横の繋がりはありません。
……シリーズといってもこれが１本目ですけれど。

――注意事項――
一部、現在では不適切な単語・表現を用いています。ご了承ください。

3:名無しNIPPER[saga]
2015/08/09(日) 18:23:29.28 ID:ZDNFok4L0
それはほんの些細なこと。
学校帰りに事務所に来て、アイドル仲間と一言二言交わし、時には仲よさげに談笑し、レッスンスタジオに向かう。
仕事の日には俺が送り迎えをするか、あるいは加蓮に任せるか。
車の中では楽しそうに学校のことを喋っていた。それはいつも通りだけれど、様子は、少しおかしい。

4:名無しNIPPER[saga]
2015/08/09(日) 18:24:29.31 ID:ZDNFok4L0
仕事の打ち合わせをした後と、移動の待機時間１０秒と、レッスン後にソファに座った後。
ほんの少しの時間、加蓮はガラケーを取り出して、何かを思案するように目線を宙にやって、そしてまた、いつも通りに戻る。
たった５秒足らずの動作がひどく目に焼き付いて、気になって仕方がない。

上着がもう１枚ほしくなった頃、加蓮を食事に誘ったことがある。

5:名無しNIPPER[saga]
2015/08/09(日) 18:25:29.24 ID:ZDNFok4L0
だったら直接に聞けばいいんだろうけれど、そうさせないのは。
加蓮と出会って２ヶ月くらいした時の……そう、ちょうど制服の仕事が入る１週間くらい前に言われたことが、今でも引きずっているからだ。

『アタシ、Ｐさんのこと嫌いになりたくないから、先に言っとくけど』

6:名無しNIPPER[saga]
2015/08/09(日) 18:26:29.31 ID:ZDNFok4L0
それでも俺と加蓮の仲は良好だ。良好、だと思いたい。いつも見せる笑顔が偽物だったら、人間不信になってしまいそうだ。
踏み出さなくても、人間関係は作れる。
今まではそうだったから、今までどおりにやろうとしたけれど。

違和感は瞼に張り付いて、俺の睡眠時間を奪っていった。

7:名無しNIPPER[saga]
2015/08/09(日) 18:27:29.38 ID:ZDNFok4L0

靄が晴れないまま、秋が終わろうとしていた。
その日、俺は加蓮を小会議室に呼び出し、あるリストを見せていた。

8:名無しNIPPER[saga]
2015/08/09(日) 18:28:29.73 ID:ZDNFok4L0
顔が隠れていない。俺が口の中だけで笑みを作ると、目敏く反応する。あー、今笑った！　と。

「なんだか、小さい頃に聞いた歌が多いなぁ。昔の歌ばっかり」
「最近の歌はカバーしにくいからな。許可とか使用料金とかキツイんだよ」
「え、でもこういうカバーって許可とかいらないんじゃないの？　テレビで言ってたよ」

9:名無しNIPPER[saga]
2015/08/09(日) 18:29:29.72 ID:ZDNFok4L0
さて。
リストこそ持ってきたが、ほとんど参考意見を聞きに来たような物だ。
ポケットに忍ばせている、メモ１枚分のリスト。そこには５曲がリストアップされている。
ファンのアンケートの中から特に多かった物から加蓮に似合いそうな物を、独断と偏見、それからトレーナーさんの意見を織り交ぜて選んでおいた。
加蓮から要望が出ないようなら、ここから選ぶつもりだったけれど――

10:名無しNIPPER[saga]
2015/08/09(日) 18:30:29.77 ID:ZDNFok4L0
俺は思わず時計を見ていた。まだ話を始めて５分も経過していないが……加蓮にはもう、引っかかる物があったというのか。

「ほう、もう決めたのか」

感心する一方で、口の中で少しだけ舌が突き出てくるのが分かる。

11:名無しNIPPER[saga]
2015/08/09(日) 18:31:29.99 ID:ZDNFok4L0
「……どれだよ」
「これ」
「ん？　……えー……どういう歌だっけな、これ」
「もう。リスト持ってきたのＰさんでしょ。覚えてないの？」
「すまん……。思い出すのも兼ねて、ちょっと歌ってみてくれ」

12:名無しNIPPER[saga]
2015/08/09(日) 18:32:30.09 ID:ZDNFok4L0
「『え、違うよな？　加蓮？　冗談だよな？　冗談……だよね？』……最後には乙女っぽくなってたっけ」
「相変わらずモノマネうまいよなお前……」
「声色の１つも変えられないでアイドルがやってられますか」

だったら世の中のＣＤはもっと虹色になっている筈だ。

13:名無しNIPPER[saga]
2015/08/09(日) 18:33:30.42 ID:ZDNFok4L0
「だめ」
「は？」
「もっと真剣にやって。Ｐさん。いつもみたいに」

人は影響される。相手が年上だろうと年下だろうと、面倒を見てくれる人だろうと面倒を見ている相手だろうと、関係なく。

14:名無しNIPPER[saga]
2015/08/09(日) 18:34:30.60 ID:ZDNFok4L0
そしてもう１つ。
いざという時にはとんでもなく真剣な雰囲気を漂わせる切り替えも。
スケジュール帳を開くまでもなく時間の予定を思い出せた。事務仕事はあるが徹夜すれば問題はない。

「……分かった。ただ、そうなると電話だけじゃなくて直談判の方が効果的だ。今から営業に行くことになるが予定と体力は大丈夫か？」

15:名無しNIPPER[saga]
2015/08/09(日) 18:35:30.93 ID:ZDNFok4L0
言葉を続け……ようとしたら、すっ、と加蓮の白い指が伸びてきた。

「ふふっ」
「……」

16:名無しNIPPER[saga]
2015/08/09(日) 18:36:30.97 ID:ZDNFok4L0

『蛍火』。

17:名無しNIPPER[saga]
2015/08/09(日) 18:37:31.13 ID:ZDNFok4L0
後で全力で頭を下げたら、そういう真面目なとこは嫌いじゃないよ、と笑って許してくれた。
でもＰさんはアホだよね、とも言われたけど。

「……加蓮」
「ん？」

18:名無しNIPPER[saga]
2015/08/09(日) 18:38:31.23 ID:ZDNFok4L0
進捗は順調、だったのだが。

「……いや、なんでもない」

収録を２日後に控えた日。オフだった筈の加蓮はいきなり事務所に乗り込んで、開口一番、車を出せ、と言い出した。

19:名無しNIPPER[saga]
2015/08/09(日) 18:39:31.33 ID:ZDNFok4L0
何が何だか分からないが。
どうも、笑って済ませるようなことではないことらしい、ということが、雰囲気で分かった。

「終わってから、どこかで食べよ？」
「そうだな」

20:名無しNIPPER[saga]
2015/08/09(日) 18:40:31.31 ID:ZDNFok4L0
「仲良くあの世に逝っちゃおう！」
「冗談でもやめろ。お前が言うと冗談に聞こえない」
「えー。もう、Ｐさんっていつまで経っても真面目なままだよね。もうちょっと楽に生きればいーのに」
「真面目なことだけが取り柄だからな。加蓮も俺を見習うといいぞ」
「Ｐさんを見習うとハゲそうでヤダ」

21:名無しNIPPER[saga]
2015/08/09(日) 18:41:31.26 ID:ZDNFok4L0
「十円ハゲ見っけ」
「嘘だろ？　オイ嘘だろ！？　加蓮、いつもの冗談だよな？　今ならまだ間に合う。冗談だよな、冗談って言え！」
「お、凛からメール来てる」
「今それどうでもいいよな！？」

65Res/34.42 KB

↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。

VIPサービス増築中！
携帯うpろだ|隙間うpろだ

Powered By VIPservice