732: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:29:47.22 ID:3+pD+bLQo
 まもなく世間では大型連休で、法務部とか云う暦通りの連中からは浮かれた空気が漂ってくるのに。 
  
 「社内格差だ!」とでも叫びたくなる。 
  
 ただしそれを云い始めたら、P以上に暦の関係ないアイドルたちから怒られよう。 
733: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:30:13.26 ID:3+pD+bLQo
  
  
 ―― 
  
 大型連休後半、五月に入ってすぐの週末。Pと凛は午前中の便で新千歳空港へ降り立っていた。 
734: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:30:40.94 ID:3+pD+bLQo
 預けた荷物はないので返却場のターンテーブルは素通りし、札幌行きJRのホームへと向かう。 
  
 東京とはまるで違う構造の電車に、凛は驚いた。 
  
 「ドアが二重になってる……」 
735: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:31:11.69 ID:3+pD+bLQo
 なぜこのような旅行紛いのことをしているのか? 
  
 札幌に二店舗あるトワーレコードで、トークイベントを開催することになったためだ。 
  
 CDが爆発的にヒットしたことで、ジヤパン哥倫から急遽、大型連休中に全国各地で発売記念トークを行なう企画を得た。 
736: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:31:37.13 ID:3+pD+bLQo
  
 「――実は発売日にこっそり近くのお店を覗いたんだ。 
  そしたら特設コーナーがあって、立ち止まってくれる人も多くて」 
  
 アイドル衣装ではないが、普段よりややお洒落をした私服で、 
737: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:32:06.96 ID:3+pD+bLQo
  
 「ねえ、プロデューサー」 
  
 二箇所での仕事を終えて、帰京する時間まで札幌の街を散策するうち、凛が隣を歩くPに語り掛けた。 
  
738: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:32:33.48 ID:3+pD+bLQo
 Pは正直、そこまで考えてトークイベントの企画を進めたわけではなかった。 
  
 たまたまジヤパン哥倫からの「やらない?」と云う素案を具体化し、廻しただけ。 
  
 それでも凛が、そしてファンが喜んでくれたのなら、プロデューサー冥利に尽きるというもの。 
739: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:33:02.92 ID:3+pD+bLQo
 「……そっか。社長やプロデューサーにスカウトされて……もう、一年経つんだね」 
  
 流れで高校へ進学して、何の彩りもなかったときに現れた、妙なオジサン。 
  
 渋谷で当て所もなく抜け殻になっていた自分の前に現れた、妙な不審者。 
740: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:33:31.76 ID:3+pD+bLQo
 「プロデューサーには云うまでもないだろうけどさ、私、空っぽだったんだよね――」 
  
 卯月みたいに、小さな頃からアイドルへ憧れていたわけでもない。 
  
 未央みたいに、大勢の輪の中心で笑っていたわけでもない。 
741: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:33:58.05 ID:3+pD+bLQo
 「でもさ、それってプロデューサーと麗さんが教えてくれたんだよ。こんなに熱くなれるものがあるんだ、って。 
  プロデューサーが私の背中を押してなかったら、ステージに立つ緊張も、スポットライトを浴びる高揚感も、 
  歌う楽しさも……たくさんのことを知らないままだった」 
  
 ――だから。 
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