772: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:53:00.98 ID:3+pD+bLQo
 身体を起こすと、傍の廊下を、終業した社員が会釈を寄越しながら通り過ぎていくところだった。 
  
 凛も目礼を返すが、当該社員の顔に見覚えはない。 
  
 最近、社員の数がどんどん増えているので、まだ会ったことのない人が、このビルには何人もいる。 
773: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:56:02.84 ID:3+pD+bLQo
  
 階段を上ると、本来は固く閉まっているはずの重い防音扉が少し開いていた。 
  
 覗き込むと、第一ダンスレッスン室に、未だ照明が点いている。音もそこからだ。 
  
774: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:57:15.86 ID:3+pD+bLQo
  
 Chase the Chance (1995) 
 https://www.youtube.com/watch?v=L88wQ8iSff0 
   
775: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:57:42.74 ID:3+pD+bLQo
 「――ッ!?」 
  
 その瞬間、熱波が身体中を襲ったかのように突き抜け、飛ばされるように尻餅をついた。 
  
 腰が抜けて、動けない。 
776: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:58:31.16 ID:3+pD+bLQo
 曲がアウトロとなり、サビのフレーズをひたすら繰り返してフェードアウトすると、ようやく疾風が止まった。 
  
 「……ふぅ」 
  
 一気に力を抜いた麗は、少し離れたところに掛けてあるタオルを取ろうと横を向く。 
777: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:59:05.12 ID:3+pD+bLQo
 「……あー、こほん。ひとまずだな、渋谷、ショーツが見えてるぞ」 
  
 股が開き、灰色のスカートから覘いている白いショーツを麗は指差して、自身の顔を伝う汗を拭う。 
  
 四月から正式に専属トレーナーとなり、生徒となったアイドルたちを、麗は呼び付けするようになっていた。 
778: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:59:36.43 ID:3+pD+bLQo
 「あ、あの……凄かったです。その……色々と」 
  
 凛は云いたいことが多過ぎて逆に収集つかず、一言しか出せなかった。 
  
 麗のレッスンはこれまで何度も受けてきたが、ここまでの動きは見たことがない。 
779: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 22:00:09.87 ID:3+pD+bLQo
 「私の今の役目は、後輩をしっかり育てることさ。表舞台へは、そこに相応しい者が立てばいい」 
  
 麗はそのまま水を一口飲んで、少しだけ黙り込んだ。 
  
 ややあって短く嘆息してから、やれやれと云う表情で笑みを浮かべる。 
780: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 22:00:45.24 ID:3+pD+bLQo
 「それでも、凄い躍動感でした。 
  今まで聞いたことのないほどクールな曲に、今まで見たことのないほどホットなダンス」 
  
 「……そうか。この曲を知らない世代が現役になったんだな……」 
  
781: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 22:01:14.90 ID:3+pD+bLQo
 「ウソ……17年も前の曲……? これが……?」 
  
 てっきり、最近発売されてまだ耳に入っていなかったものだと。 
  
 「たしか当時150万枚くらい売れたはずだ」 
782: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 22:01:45.94 ID:3+pD+bLQo
 「さっきのダンスは当時の振り付けのまま、コピーしただけなんだ。 
  私がアイドルを目指すきっかけになったやつさ」 
  
 麗はもう一口、水を飲んで、「いつか――このレベルのパフォーマンスを、現代に復活させたいね」と 
 やや離れた机にペットボトルを置きにいく。 
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