775: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:57:42.74 ID:3+pD+bLQo
「――ッ!?」
その瞬間、熱波が身体中を襲ったかのように突き抜け、飛ばされるように尻餅をついた。
腰が抜けて、動けない。
776: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:58:31.16 ID:3+pD+bLQo
曲がアウトロとなり、サビのフレーズをひたすら繰り返してフェードアウトすると、ようやく疾風が止まった。
「……ふぅ」
一気に力を抜いた麗は、少し離れたところに掛けてあるタオルを取ろうと横を向く。
777: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:59:05.12 ID:3+pD+bLQo
「……あー、こほん。ひとまずだな、渋谷、ショーツが見えてるぞ」
股が開き、灰色のスカートから覘いている白いショーツを麗は指差して、自身の顔を伝う汗を拭う。
四月から正式に専属トレーナーとなり、生徒となったアイドルたちを、麗は呼び付けするようになっていた。
778: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:59:36.43 ID:3+pD+bLQo
「あ、あの……凄かったです。その……色々と」
凛は云いたいことが多過ぎて逆に収集つかず、一言しか出せなかった。
麗のレッスンはこれまで何度も受けてきたが、ここまでの動きは見たことがない。
779: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 22:00:09.87 ID:3+pD+bLQo
「私の今の役目は、後輩をしっかり育てることさ。表舞台へは、そこに相応しい者が立てばいい」
麗はそのまま水を一口飲んで、少しだけ黙り込んだ。
ややあって短く嘆息してから、やれやれと云う表情で笑みを浮かべる。
780: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 22:00:45.24 ID:3+pD+bLQo
「それでも、凄い躍動感でした。
今まで聞いたことのないほどクールな曲に、今まで見たことのないほどホットなダンス」
「……そうか。この曲を知らない世代が現役になったんだな……」
781: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 22:01:14.90 ID:3+pD+bLQo
「ウソ……17年も前の曲……? これが……?」
てっきり、最近発売されてまだ耳に入っていなかったものだと。
「たしか当時150万枚くらい売れたはずだ」
782: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 22:01:45.94 ID:3+pD+bLQo
「さっきのダンスは当時の振り付けのまま、コピーしただけなんだ。
私がアイドルを目指すきっかけになったやつさ」
麗はもう一口、水を飲んで、「いつか――このレベルのパフォーマンスを、現代に復活させたいね」と
やや離れた机にペットボトルを置きにいく。
783: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 22:02:16.09 ID:3+pD+bLQo
「……あの、麗さん」
「ん? どうした」
麗が振り返ると、群衆の錯覚は霧散した。
784: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 22:02:59.58 ID:3+pD+bLQo
「甘いことを云うようですが、業界に入って、初めて、その頂の遠さを実感しました」
自らが、さきほど錯覚に視たような、観衆によって埋め尽くされたシーンに立てるのか。
「以前は、身近に感じていたトップアイドル、それが急にとても遠くの出来事のようで……」
785: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 22:03:28.55 ID:3+pD+bLQo
「私、このままやっていけるのか……」
消え入りそうな凛とは対照的に、強くはっきり麗の声が響く。
「案ずることはないだろうさ。いつだったかも云ったように、渋谷にはP殿がいる。
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