過去ログ - 鷹富士茄子「私を見つけてくれたから」
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60:名無しNIPPER[saga]
2015/08/30(日) 04:09:43.17 ID:gYEWnskp0

「お姉ちゃん……お姉ちゃん……」


あの女性をうわ言のように呼びつつ、とにかく走りながら周囲を見渡し、誰かいないか、隠れられる場所は無いかと狂乱の中で闇雲に探しました。
すると、道の奥に防波堤が見えました。港の方なら、もしかしたら渡しの人がいるかも知れない。
そう思って、俺はもう無我夢中でそちらに駆け出しました。

が、海岸に出ても誰一人おらず。漁師の人達が住んでいるであろう海沿いの家も明かりの一つも見えずただひっそりと。
遠くに見える渡しの場所には人の気配も感じられないどころか、舫ってあるはずの船すら見えない。
そして海は鏡かと疑う程に凪ぎ、空と完全に溶け合い海岸線すらおぼつかず、ぼうっと空を映しているだけ。

何処にも人がいない。早くしないと、またあいつが追って来る。発狂寸前の俺は叫び出すのを何とか圧し留め、また駆け出しました。
駆ける足と恐怖のせいで心臓がはちきれんばかりに打ち、頭の中がこの意味不明な事象のせいでもう滅茶苦茶になって何が何だかわからない。
とにかく人がいる所へと回らぬ頭で必死に考え、今度は一番民家のある場所へと駆けました。

何とか目的地に辿りついたものの、やはりどの家にも気配は無く。
誰かいないかと声を荒げるも返る言葉は跳ね返る自分の声ばかり。
周囲の民家は死に絶えたように無言を貫き、俺をただただ無言の圧力で以って拒絶してくる。
目を泳がせ、人の気配を必死に探るもそんなものは全く感じられず。

中に入って確かめるかと思いましたが、窓から明かりは一つも見えず、結局は私の家と同じように影だけが蔓延っているはず。
それに合わせて人の家に勝手に入ってはいけないという教えが律義に頭の中にちらつき、
俺はどの家の戸にも手をかけずにまた走り出しました。



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