過去ログ - 鷹富士茄子「私を見つけてくれたから」
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62:名無しNIPPER[saga]
2015/08/30(日) 04:11:18.79 ID:gYEWnskp0

熱を帯びて上がらなくなってきた腕と脚を必死で動かして参道に出て、鳥居の見える方向へよたよたとまた走り出しました。
もう少しで、きっと、助かる。燃えるような疲労感が体中を襲う中、そんな一筋の光明が見えてきました。
が、俺の脚はまたそこで磔に。

鳥居の前に、黒く凝り固まったものが。それは全く、見ただけで何なのか理解の出来るものではありませんでした。
それは絶対に生きていない。しかし霊と見ようにも、あまりにも気配が異質過ぎる。
明確な敵意というか、俺を標的として定めているかのような、ハッキリとした意志が感じられる。
恐ろしい程の不安と恐怖と臭気を振りまくそれは、人間でもなく幽霊でも無い。強いて何かに例えるなら邪悪の塊。
この邪悪がこの島を誰もいない場所に変えてしまったに違いない。俺はそう確信しました。

しかし、そんな事がわかった所で時は既に遅し。
目はそれに釘付けになったまま、体を動かす事も出来ずに俺はそこに立ちすくむ。
頭はあれが何か理解出来ているのに、体は全く動かない。最初にあの社を見た時と同じような、吸いこまれる感覚。

そうして動けなくなった俺に向かってそれはゆっくりと歩み寄って来る。
妙な方向に曲がった脚を引き摺り、伸ばした腕を俺に向けて――その伸ばした指先もぐにゃぐにゃにあり得ない方向に折れて――
必死の気迫を伴ってそれは着実に、じりじりと距離を縮める。

近づくにつれて濃くなる鼻をつんざく刺激臭に胃を鷲掴みにされて、胃液が昇り口から吐き出る。
鼻にまで酸っぱいものが詰まり、呼吸が苦しくなっているというのに体は相も変わらずに操縦が利かず。

後六歩、五歩。それは気の遠くなるような遅さで、いたぶるかのように歩み寄る。
俺はもう目から鼻からぐちゃぐちゃになった液を垂らし、終いには尿やらも漏らしながらその光景をただただ見つめるばかり。
思考もそのうち固まって、目の前にある事象をただ流れる景色のように捉えるようになって。

あぁ、もう駄目なのだな。よくわからないけれどもう俺は死ぬのかも知れない。
子供ながらに、ふとそんな諦めを抱いて。

後一歩。その程度の距離でそれの手が俺に届くという所で。
俺の視界に闇が広がり、意識もそれに引き摺られるように落ちていきました。

意識が無くなる直前。その最後に俺が見たもの。
紅い色の何かが、黒いものから俺を護るように踊り出てくるのがぼんやりと見えました。


……


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