5: ◆2YxvakPABs[saga]
2015/08/19(水) 23:44:29.11 ID:jRTVHHoQ0
「……菜々さん?」
「ぁ……ぷ、プロデューサー……さん」
「元、ですけどね。どうしたんです? こんなところで立ち止まってたら風邪を引いてしまいますよ?」
「プロデューサーさん……今からでも、ナナは貴方の元に帰ることは出来ませんか……?」
「……何かあったんですか? とりあえず、近くのカフェへと入って、温かいものでも飲みましょう」
プロデューサーさんに連れられて、近くのカフェへと足を踏み入れる。
店の中は段違いに暖かい。だが、もっと暖かいのは、この元プロデューサーさんの纏う空気だ。
一緒にいるだけで、彼の優しさが温度になって伝わってくるような気がしてくる。
ナナは、ついさっきの口論を彼に話した。
出来る限り客観的に話したつもりだが、どうしても不平不満が混ざってしまう。でも、そんな言葉も彼は静かに聞いてくれた。
やがて、全てが話し終わると、手元にあった暖かいコーヒーを一口飲む。今の説明のように苦いコーヒーだ。
「うーん、僕の意見を言わせてもらうと、正直、彼の言うことが全て間違っているわけではないと思うんです」
「そう……ですか。そう言われるんじゃないかって思ってました。本音言うと、全て間違ってるって言って欲しかったですけどね」
「プロデューサーとアイドルの意見が、必ずしも一致するとは限りません。一致するのが、一番ベストなんですけどね」
「一致するような組み合わせにすればいいじゃないですか」
「それでも、全員が成功するわけではないと思うんです。自分から見た自分と、他人から見た自分は異なります。逆に言えば、自分では気づかない魅力に、他人が気付く場合もあるんです。だから、人の意見も無視は出来ません」
「どっちなんですか」
「ケース・バイ・ケース。そればっかりは、実際にやってみないとわかりません。成功すれば正しかった、成功しなければ間違っていた、と言ったところでしょうか」
「なんか卑怯ですよ、それ」
「100人の人がいたら、菜々さんに対する印象は100人ともそれぞれ違う。ある程度の一致はあっても完全に一致はありません」
「……つまり、多少の意見の食い違いは当たり前……ですか」
「えぇ。僕から見ると、菜々さんは、今壁にぶつかってるんですよ」
「壁?」
「転機と言ってもいい。今のままでアイドルを続けるのか、また違う方向性でアイドルを続けるのか。菜々さんはどうしたいんですか?」
「……わかりません」
「僕は、菜々さんのあのキャラは好きですよ。見ていて元気になる。だから、僕はあのままの菜々さんをプロデュースした」
「ナナは、ずっと、貴方のところでアイドルをしていたかったです」
「結論から言うと、突き放すようで心苦しいのですが、それは無理な相談です。今のプロデューサーも、ずっとあなたの側にいるとは限りません」
「……」
「ただ、ずっと僕のところにいたら、菜々さんは何も考えずにあのまま突き進んでいたことでしょう。いい機会です。自分にとってのアイドルというのを見つめ直してはどうでしょうか」
「ナナにとっての……アイドル」
「そうです。自分にとってのアイドルというのを考え直せば、答えが見つかるかもしれません」
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