6: ◆2YxvakPABs[saga sage]
2015/08/19(水) 23:45:03.16 ID:jRTVHHoQ0
――*――*――*――
ナナにとってのアイドル。
それは、考えるまでもない。昔見た、あのキラキラと輝いていた人たちのような。人々に夢を与える、魔法少女のような。
でも、そこには理想しかない。今のナナとは程遠い存在。まるで月でも見ているような、そんな気分だ。
現実は厳しい。今の季節のように凍てつくような厳しさだ。
アイドルと名乗ることはできる。しかし、あのナナが夢見たアイドル達には遠く及ばない。同じアイドルと一括りにすることすらおこがましい。
だったら、今のナナはなんなのだろう。アイドルと書かれたタスキをかけられ、はしゃぐ子供なのだろうか。
今のプロデューサーの言うように、理想のアイドル達に手をのばそうと思ったら、今のままじゃダメなのだろうか。
鏡に映る自分が見えた。
自分で言うのもなんだが、確かに同年代から比べると童顔で若くみえると思う。背は小さいが、胸はある。
肌のハリが無くなりつつあるのが、若干の悩みですが……。
今のプロデューサーは言った。ナナが魅力的だと。きっと、あの言葉に嘘はないのだと思う。冷静になってみれば、プロデューサーは、懸命にナナにプラスになることを考えていた。
彼は彼なりに、ナナのことを考えてくれているのだ。
ふと、彼はナナを……安部菜々というアイドルをどのようにプロデュースするのか見てみたいと思った。
今の自分では想像もつかない、違う私。
「どうしたら、アイドルとしてのナナにとって、もっとも良い結果になるか」
さっき聞いたばかりの言葉。それが今でもナナの耳に残り続ける。
その言葉をつぶやいた時には、ナナはプロデューサーの事務室の前に居た。
さっき出て行ったばかりの部屋。ナナは、壊れやすいものでも叩くような力でノックした。返事はすぐに来る。
「どうぞ」
「……失礼します」
「随分と早かったな。しばらくとは、2〜3日くらいのつもりだったんだが。おっと、抗議のつもりなら、そんなものに割く時間はないぞ。それはさっき充分やった」
「……抗議じゃない……です」
「ほぅ? だったら、詳しく聞こうじゃないか」
「言いたくないですが、プロデューサーのプロデュースするナナというのを、見てみたくなりました」
「おぉ、分かってくれたか、安部!」
彼は、今までにないくらいの笑顔で笑った。
勢い良く立ち上がった彼は、入り口付近で立ちっぱなしだったナナの元まで歩いてきて、ぎゅっとナナの手を握った。
不意の出来事に、不覚にもドキッとしてしまう。男の人に手を握られたのはいつ以来だろうか。
「きっと分かってくれると思っていたぞ。そうとも、お前にはもっとアピールできるところがたくさんある。そこを重点的に……そうだな、例えば年齢相応な大人な路線でプロデュースする……とかな」
「そ、それよりも、プロデューサー……手離してください」
「すまんすまん、つい。そうだな……さっきは俺も熱くなったが、なにもお前の全てを否定したかったわけじゃない。ただ、せっかくの魅力が伝わりきっていないと、そう言いたかっただけなんだ」
「……」
「これからは、ウサミン星人安部菜々ではなく、アイドル安部菜々として、本当のお前の姿を見せていこう」
「本当の……ナナ」
「あぁ。そんな安部に朗報だ。来週、小さいイベントだがライブの仕事が入った」
「!?」
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