過去ログ - 智香「ガンバレノチカラ」 -SS速報VIP

過去ログ - 智香「ガンバレノチカラ」

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1: ◆uCbLPg/WnY[sage]
2015/08/30(日) 15:43:26.83 ID:f5jvWP1/0
地の文あり。

若林智香ちゃん、誕生日おめでとうございます。

SSWiki : ss.vip2ch.com

2: ◆uCbLPg/WnY[saga]
2015/08/30(日) 15:44:24.57 ID:f5jvWP1/0
『初めまして。今日からあなたのプロデューサーになる、Pと申します』

「よ、よろしくお願いしますっ」

アタシがそう言うと、初老のその男性はニッコリと彫りの深い、柔和な笑みを浮かべた。

3: ◆uCbLPg/WnY[saga]
2015/08/30(日) 15:46:41.01 ID:f5jvWP1/0
すらすらすらすらと、目で追うことのできないぐらいの早さでスケッチブックに文字を書き上げるPさん。

『ですので、基本的に会話はこのように筆談になってしまいます』

『意思疎通が難しい時もあると思いますが、よろしくお願いします』

4: ◆uCbLPg/WnY[saga]
2015/08/30(日) 15:49:44.48 ID:f5jvWP1/0
「がんばれー☆がんばれー☆」

右手、左手。

両手に持ったポンポンをリズムよく上下に振りつつ、バッターボックスに立つ幸子ちゃんを応援します。

5: ◆uCbLPg/WnY[saga]
2015/08/30(日) 15:51:05.57 ID:f5jvWP1/0
経験者である友紀さんに言わせてみれば、まさに『甲子園の魔物』。別にここは甲子園ではないんですけどね。

先ほどまでは拓海さんがピッチャーをやっていたのですが、球は早いものの、なかなかストライクゾーンに収まる球を投げないので交代したそうです。

「遠慮はしないでいくぞ！」

6: ◆uCbLPg/WnY[saga]
2015/08/30(日) 15:53:50.22 ID:f5jvWP1/0
「どちらもがんばれー☆☆☆」

野球観戦をしながらも、応援は忘れません。すると不意に、アタシの隣に誰かが座ってきました。

『ここにいたんですか。智香さん』

7: ◆uCbLPg/WnY[saga]
2015/08/30(日) 15:57:31.03 ID:f5jvWP1/0
『野球、ですか。アイドルが』

「はいっ。何でも野球番組に幸子ちゃん達が出演するそうで！」

『出演するから、実際に体験してみると……面白い人達ですね。みなさん』

8: ◆uCbLPg/WnY[saga]
2015/08/30(日) 16:00:08.18 ID:f5jvWP1/0
するとPさんは少し顔をしかめてしまいました。

「あ……すいませんっ。うるさかったですか？」

『いや、そうじゃないんですが……少し、ね』

9: ◆uCbLPg/WnY[saga]
2015/08/30(日) 16:02:39.93 ID:f5jvWP1/0
遠くからアウトというような声が聞こえたような気がしましたが、そんなことは気にしていられませんでした。

信じられなかったのです。【頑張れ】という言葉を、好きではない人の存在が。

同時に、アタシ自身が否定されたかのような気持ちを抱いてしまったのです。

10: ◆uCbLPg/WnY[saga]
2015/08/30(日) 16:05:28.78 ID:f5jvWP1/0
『はい。例えば、これ以上ないくらい頑張っている人に、【頑張れ】という言葉をかけたとしましょう。どう、思いますか？』

「それ、は……」

今まで考えたこともなかった事。

11: ◆uCbLPg/WnY[saga]
2015/08/30(日) 16:08:53.96 ID:f5jvWP1/0
そう言って寂しそうに笑う顔は、今までアタシが見たことがないPさんの表情でした。

『どうもね。私の事をちゃんと理解してくれない人もいて』

ゆっくり、ゆっくりとスケッチブックにPさんは確かに『言葉』を書き連ねてゆきます。

12: ◆uCbLPg/WnY[saga]
2015/08/30(日) 16:10:40.47 ID:f5jvWP1/0
恥ずかしそうに頭を下げるPさん。そこに先ほどまでの雰囲気はありません。

だけどアタシには、その眩しいくらいの白髪が、毒の作用に見えて仕方がありませんでした。

『では私は事務所に戻りますね。まだまだ仕事がたくさんあるみたいですので』

13: ◆uCbLPg/WnY[saga]
2015/08/30(日) 16:12:28.94 ID:f5jvWP1/0
雨の日。

事務所の中は、キーボードを叩く音と水が地面とコンクリートを打つ音で溢れています。

たまに何か物音がするとしたら、それはたいてい乃々ちゃんか輝子ちゃん。

14: ◆uCbLPg/WnY[saga]
2015/08/30(日) 16:15:07.72 ID:f5jvWP1/0
昔の記憶が蘇ってきます。

『頑張れ』と応援をしたのにも関わらず無視された時。

『頑張れ』と応援したのに、余計に相手のやる気がなくなってしまった時。

15: ◆uCbLPg/WnY[saga]
2015/08/30(日) 16:17:08.35 ID:f5jvWP1/0
「寒い、ですか？」

「へ？寒い……？」

そう言われて初めて、アタシの右腕が震えていた事に気づきました。

16: ◆uCbLPg/WnY[saga]
2015/08/30(日) 16:21:07.17 ID:f5jvWP1/0
一瞬、何を言われたかわからなくなりました。

しかしハッとして、今の乃々ちゃんの言葉を頭の中で反芻します。

乃々ちゃんの言葉をようやく飲み込むと、アタシは救われたかのように感じました。

17: ◆uCbLPg/WnY[saga]
2015/08/30(日) 16:22:13.36 ID:f5jvWP1/0
「Pさん、今後のアタシについてお話したいです」

後日、そう言って朝一番にPさんに切り出しました。

驚いたような顔をしていましたが、すぐにいつもの笑顔に戻ると、スケッチブックにペンを走らせました。

18: ◆uCbLPg/WnY[saga]
2015/08/30(日) 16:24:11.53 ID:f5jvWP1/0
「はいっ！」

来るだろうと思っていた質問に、迷いなしにうなずきます。

「アタシは、アタシの気持ちをそれでも届けたいと思ったんです！頑張れって応援する気持ち、誰かを助けたい気持ち、そういうのを全部ひっくるめて、みんなに知ってもらいたくて！」

19: ◆uCbLPg/WnY[saga]
2015/08/30(日) 16:27:09.07 ID:f5jvWP1/0
そして

『……私は今でも、【頑張れ】という言葉は苦手です。苦手、ですが』

『それすらも、あなたが……変えてくれますか？』

20: ◆uCbLPg/WnY[saga]
2015/08/30(日) 16:28:49.73 ID:f5jvWP1/0
初ライブの日。

舞台袖で、茜ちゃんと一緒に出番を待ちます。

輝くステージから、男の人、女の人、様々な人の声が入り混じった歓声が聞こえてきます。

21: ◆uCbLPg/WnY[saga]
2015/08/30(日) 16:30:49.32 ID:f5jvWP1/0
スタッフさん達が慌ただしく動く中、見覚えのある白髪の男性がこちらに近づいてきました。

『こんにちは、智香さん』

「こんにちはっ、Pさん！」

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