16:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:23:48.30 ID:rVNZ4GiQo
数秒ののち櫻子は予定を確認するため、思い出したかのように携帯を取り出した。バイトも部活もない今の櫻子がそれでも予定を確認するのはもしかして先約がいるからではないだろうか……少しだけ心配になったところに口を出したのは花子ちゃんだった。
「櫻子はどうせ予定なんか何もないでしょ。久しぶりにひま姉とどこか行って来れば?」
「「えっ?」」
花子ちゃんの言葉に、櫻子だけでなく私も驚いてしまう。
「どこか行って来れば?」という言葉の意味を理解するのに少々かかってしまった。
花子ちゃんは勘違いをしている。私は最低限チョコを渡す時間さえ作ってもらえればそれでよかったのだが、どうやらその日一日櫻子と私を一緒にさせようとしているらしい。
「あぁっ……べ、べつにそのっ、バレンタインデーをまるまる一日一緒にいようとかそういうことではないんですのよ!? ただせっかくだからチョコでも作ろうかと思って、その渡す時間さえあればっていう意味だったんですけど……!」
「ひま姉いいしいいし。たまには櫻子と一緒に遊んであげてほしいし」
「ちょ、ちょっと花子! 勝手に私のことまで……!」
「予定がないのは本当でしょ? せっかくひま姉がわざわざうちに出向いてまで予定を聞きに来てくれてるんだから、お付き合いをしてあげるのは礼儀だし」
「くっ……」
花子ちゃんはまるで撫子さんのように上手に櫻子を言いくるめてしまうと、カップケーキを片手にかじりながら櫻子が置いたパスタを代わりに茹ではじめた。やることのなくなってしまった櫻子は卓上カレンダーを横目に落ち着きなくしている。
まさかの事態になってしまった。櫻子の予定を聴くだけだったつもりが、これではまるで私がバレンタインデーのデートを申し込んでいる形になってしまう。確かにそれは願ってもないことであるが……あまりに予想外すぎて私まで心の準備ができていない。
途端に胸が大きく鼓動を打ち出した。どんな返事が返ってくるか想像がつかない。
櫻子は私に背を向けてしばらくカレンダーを見つめていると、腰に手をあててくるりと回った。
「……わかった。いいよ」
「……へっ?」
「予定ないから。だから……まあその日は大丈夫だよ」
座っている私を見下ろしながら、恥ずかしげにそうに言った。私の胸に張りつめかけた緊張が一気に壊れる。
「お、OKってことですの?」
「うん」
「え、じゃあ……その日は一日?」
「そうだよ。大丈夫だから」
だんだんと受け取った返答の意味が現実味を帯びてくる。この一瞬の間に何が起こったかといえば、私が申し込んだデートの誘いが了承されてしまったということだ。
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