過去ログ - 大井「少し離れてくださいな」 北上「え、なに?」
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257: ◆7SHIicilOU[saga]
2015/12/15(火) 10:49:30.41 ID:VOWGKqCQo

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 基本的に工廠、もしくは海上でその意識を発芽させ
鎮守府内と海しか知らぬ艦娘達にとって鎮守府とは家であり、
庭であり、そして世界だ。甘味処は憩いの場だし、
食堂は変則的に出撃する艦娘達が常に誰かしら食事をとっていて、
またその誰かを目当てにうろつく者もいて半ば談話室だ。
それぞれの部屋は当然数少ないプライベートスペースで大事にするものだし、
工廠は全体の半分にとっては生まれた場所で、艤装を整備する重要施設だ。
同時にドックは戦闘で負った傷を、疲れを、時には心の澱みも洗い流す場所。

 生まれて3年と言えどその家屋、施設、建造物に対する愛着は
一般人のそれとは一線を画す。けれどごく一部を除いて多くの艦娘に
『早くなくなればいいのに』と思われている場所がある。
個性的で相性がよかったり悪かったり、仲がよかったり悪かったり。
この鎮守府と言う世界の中で思い思いの思い出を積み重ねてきた彼女達が、
唯一全員共有する思い出を持つ場所。

 それが、柔剣道場だ。

「……しっ!」

 そんな艦娘達の感情由来の物かあまり手入れの行き届いていなかったこの場所は、
結果逆に現在の鎮守府内の建造物において最も真新しい外観に生まれ変わったばかりだ。

「無駄にゃ!」

 そこで拳を振るい、躱し、跳び、二転三転と打ち合うのは
柔剣道場を長良・長門・武蔵らに続いて使用する球磨型軽巡の次女と末女。
床板に散る汗の量が二人のぶつかり合いがどれだけ長く続いているかを物語っている。

「……っの!」

 木曾が繰り出した手刀は本物の猫さながらのバネと瞬発力を誇る多摩の
スウェイバックで難なく躱され空振りできた胴の正面に体勢を崩したままの多摩の蹴りが飛び込む。

「げほっ……!」
「甘いにゃ。木曾、雷巡になってむしろ弱くなったんじゃにゃいか?」

 鳩尾に深く入った爪先に堪らず後ろに木曾が飛びのく。
それを見て多摩は蹴りを放った格好のままにへらとだらしなく笑う。

「くそっ、たまんねぇよ」
「多摩にゃ」
「いや、そうじゃなくて」

 軽く蹴られた所を擦り、肩を竦める。

「まさか負け越すとは、ぶっちゃけタメ張れるかとも思ってたんだけどよ」
「あめぇにゃ、ショコラッチよりあめぇにゃ。……けど、その甘さ嫌いじゃにゃいにゃ」

 なぜここでいい台詞。と木曾が思ったかはわからない。


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