過去ログ - 咲キャラでいろいろ発散する
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66:名無しNIPPER[saga]
2015/09/29(火) 15:37:01.09 ID:PfljLHzgo
@晴空

朝、目を覚ますと何か違和感があった。寝ぼけたまま枕元の時計に目をやって、違和感の正体に気づく。カーテン越しにもわかるほど外が明るいのだ。

心の中で小さく毒づきながら布団を跳ね除け、立ち上がろうとした瞬間、世界が揺れた。なんとも足元が覚束ない。額に手をやると、明らかに熱をもっていた。ふらつきながらカーテンを開けると、そこには抜けるような青の秋空があった。

陽射しが入らず、常に暗さの纏うこの部屋からその空を見ていると、まるで自分だけが世界に取り残されたかのような錯覚に陥った。風邪のせいだと寂寥感を振り捨てて、物音がする台所へと向かう。



物音の主は小鍛治さんだった。おはようございますと声をかけると、忙しそうながらも、おはようと返してくれた。

立っているのが辛いため手近な椅子に腰を下ろすと、健夜さんは心配そうに眉根を寄せた。僕の発熱には気づいているようで、そのために起こすことをしなかったのだろう。

部屋で寝てて、と言われどうしようか迷ったが、今の自分に家事ができるでもなく、小鍛治さんに移してしまうことを危ぶめば、それ以外には僕ができることはなにもなさそうだった。

恒子ちゃんが早く帰ってきてくれる予定だから車で病院にいこう、とのことなので、じゃあ薬は飲まずに寝てますねとだけ返し、部屋へと戻った。



敷きっぱなしだった布団に転がり、窓越しに空を見上げる。僅かに白い雲があるだけの澄んだ青空はなお高くなり、どこまでも僕の孤独感を深めていくかのようだった。どこかで鳥の鳴く声を聞きながら、鬱々とした気分を潰すようにきつく目を瞑る。

ぴぃひょろろと暢気そうな鳥の声に苛立ちを覚えつつも、小鍛治さんは朝御飯をちゃんと食べたんだろうか、今熱は何度くらいあるのだろう、そういえばもうすぐお昼じゃないか、恒子さんは早引きできるのかな、せめてお昼は作らないと、などと頭の中が混乱を極め、とりあえず軽くなにかを作ろう、と目を開くと、いつのまにか枕元に小鍛治さんが座っていた。どうやらいつのまにか眠ってしまっていたらしい。

食べれそうなら少しでも食べて、と言われ、見ると小鍛治さんの脇には小さな丸盆が置かれており、そこに僕のご飯茶碗が乗せられていた。

身を起こし、では少しだけ、と茶碗を受け取って程よく温いお粥を口に入れる。舌が馬鹿になっていてまるきり味はしなかったが、美味しいです、と呟くと、心配そうにこちらを見ていた小鍛治さんはほっとした様子だった。



食べ終わり再び横になると、何かしてほしいことはあるかと聞かれた。

空の青が目に入り、寂寥感に圧されるように手を伸ばしかけたが、慌てて引っ込めて、特にないですとだけ告げる。

小鍛治さんは何か考えている様子だったが、何も言わずに丸盆を手に取り部屋を出ていった。

遠ざかるその後ろ姿を見送って、そのままぼうとしていると、丸盆を手に小鍛治さんが戻ってくるのが見えた。



喉が乾いたら飲んでね、とデキャンタに入れた水とコップが枕元に置かれた。ありがとうございますと言いかけて、はいこれ、と遮られる。手渡されたのは白いマスクだった。受け取ってもぞもぞと着けていると、同じように小鍛治さんもマスクを着けていた。

これで移らないよ、と小鍛治さんは、先ほど引っ込めた僕の手をとった。

今日はお姉さんが看ていてあげよう、と言った小鍛治さんに、いつも出てくる軽口の代わりに、素直な言葉を伝える。

軽口に備えていた小鍛治さんは一瞬きょとりとしたが、ややあってから微笑むと、特別に子守唄も歌ってあげる、と小さな声音でメロディを口遊んでいく。

あまり上手いとは言い難かったが、またいつか歌ってもらえる日を思って、それは胸の中に秘めておくことにした。

とんとんと僕の胸をあやすように叩く小鍛治さん越しに窓の外を見ると、雲の白すらなく透明な青一色となった秋空が僕と小鍛治さんを見守っているように思えて、一度だけ強く手を握って、僕は眠りに落ちた。


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