69:名無しNIPPER[saga]
2015/09/29(火) 15:43:28.96 ID:PfljLHzgo
2/2
胸ポケットから手紙を取り出す。蒲原智美に僕のことを聞いた旨の書き出しから始まるその手紙は、東横桃子からのものだった。分厚い札束とともに届いたその手紙の依頼内容は、奇妙なものだった。
いずれ加治木ゆみなる人物が訪ねて来たなら、彼女の隣に誰かがいるような振りをしてくれ、と、それだけだった。
手紙には、東横桃子の加治木ゆみへの愛憎が綴られていた。この依頼は、加治木ゆみが東横桃子だけを見てくれるように、とのおまじないなのだ、と。
窓の外を見ると、加治木さんの後ろ姿が見えた。彼女はきっと、いつか現れることだけを祈って、いもしない東横桃子とともに、東横桃子だけを想いながら、日々を過ごすのだろう。
彼女の自業自得とはいえ、あまりに残酷な――。
「ああ、そうか」、思い当たって呟く。
おまじないと源を同じにする言葉。
「呪い、か」
からりと氷が鳴った。見ると、空席に置かれた飲みかけのアイスコーヒーが揺れている。
黒い水面に、なお暗い女性の微笑みが見えた気がした。
90Res/59.59 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。