過去ログ - 速水厚志「ハッピーエンドを取り戻す」
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5:名無しNIPPER[saga]
2015/10/31(土) 20:59:21.42 ID:08xPns3X0

「僕は、死にたくない。そのために戦車兵になったんだ。死ぬためだけに戦うのはごめんだ」

「なにを言っているのだ。そなたは」

「今の二人は、死にに行くみたいだ。僕は死ぬために戦ってきたわけじゃない」

「この状況だ。覚悟は必要であろう」

「必要なのは死ぬ覚悟じゃない」

今更、何を。舞は困惑し、厚志を見ていた。
これまで、どんな窮地も、どれだけの死地さえも乗り越えてきた。
それなのに、厚志はこれまでにない恐ろしい表情で睨む。なぜだ。

「このまま戦ったら、死ぬだけだ。二人ともそれを分かってるのに、ただその戦いに挑むって言うの?」

「なれど、逃げ場などはないぞ」

文字通り、生きるか死ぬか。5121、そしてカーミラに逃げ延びる場所、帰る場所などなかった。

「そうじゃない。僕たちは最初っから、ずっと不利な戦いをしてきた。ずっと、勝ち目のない戦いに挑み続けてきた。無茶や無理ばかりしてきた。……けどその戦いに、無策だったことはない」

ずっと、いつでも、戦い方を考え、勝ち方を考え、あらゆる手段を試行錯誤し針の穴に糸を通して、生き残ってきた。
奇跡だけにすがって戦ったことなど、一度もない。

「じゃあどうしろって言うのよ!」

声を荒げたのは、カーミラだった。

「青スキュラたった千で、敵の中型幻獣を数百万と相手にできる戦略や戦術がどこにあるの? いくらあなたたちが鬼のように強くても、災禍を狩るための災禍だとしても、たったの一個小隊、それもボロボロの。押し寄せるあしきゆめの海に、勝つ方法が、どこにあるって言うの?」

白磁の肌に、水滴が伝う。

背後に立った家令のハンスですら、ハンカチ一つ差し出せずにいた。

「へぇ、なんだかずいぶんと辛気臭い顔が並んでるね。今日は誰かの通夜かな」

半ズボンから伸びる細く白い足が三人に歩み寄りながら言った。
カーミラが、エメラルド色の瞳に怒りを宿し睨む。
冗談にもなっていない。
幻獣とはカーミラの世界では人間だった者達であり、カーミラにとっては大事な、家族同然の民だ。それが既に何十万と死んでいる。
そしてカーミラを慕ってくれた避難民らも、多くがカーミラを守り、死んでいった。




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