過去ログ - 【らっきょ福音】両儀夫妻の日常会話
1- 20
44:RB20DETTT ◆Rnna8vyZW.[sage]
2015/11/10(火) 22:28:38.00 ID:HDV9Zdpo0
窓越しの月明かりが彼の身体を琥珀色に縁取り、汗に濡れた皮膚を陶器の様に輝かせる。
それを最初に望んだのは、彼なのか、それとも私なのか。もうそんな昔のことは忘れた。不可逆の過去に未練はない。

余りにも拙い、当事者以外には滑稽としか映らない行為。その拙さゆえに、互いに満たされず、貪る。ただひたすら貪る。飽きる事を忘れたかの如く、貪り続ける。

「信じられない。一人だけ先に寝るとか」

彼が退院してからここ数日、私と彼の鼓動はずっと同調したままだった。基本動作の繰り返しが増幅する中毒性。単調故の非退屈。個対個が溶け合い、単一の肉塊へと融合する蜜月。

この滑稽な営みの行き着く先が、命の誕生だというならば。
人の生が喜劇たらんとするのも、また必然か。

「まったく、男は気楽で良いよな」

彼の不器用な動きを受け止め続けた関節が、僅かに軋む。黙殺。ベッドの上に、ゆっくりと上半身を起こす。
月明かりに左腕をかざすと、産毛が銀色に輝く。最高位の人形師は、小娘に与える義手一本の品質にも妥協しなかったらしい。
子供の頃に見た手品師の様に指を踊らせて、夜空の柔らかい光をしばらく弄ぶ。

彼は髪を乱したまま、私の膝の上で気持ち良さそうに眠っている。長い睫毛に縁取られた瞼がランダムに震え、私の下腹部を撫でる彼の寝息がくすぐったい。

「なんて無防備… うっかり殺してしまいそうだ」

耳朶に唇を近付けて、囁く。言葉にすることで私の殺意が励起して、魔眼が目覚める。彼の身体はどこもかしこも、死線だらけだ。一分の隙もなく脆弱。まばたきする間に五回は殺せる。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
83Res/36.34 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice